研究課題/領域番号 |
24590496
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
下里 修 千葉県がんセンター(研究所), 研究局・発がん研究グループ, 上席研究員 (30344063)
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研究分担者 |
上條 岳彦 千葉県がんセンター(研究所), 研究局・発がん研究グループ, 部長 (90262708)
早田 浩明 千葉県がんセンター(研究所), 医療局・消化器外科, 研究員 (90261940)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 大腸がん / 癌性幹細胞 / スフェア形成 / 治療抵抗性 / CD133 |
研究概要 |
近年、がんの難治性を説明しうる「癌幹細胞仮説」が提唱され、当該細胞に関する基礎研究が重点的に行われている。癌幹細胞の特徴である浮遊した細胞塊(スフェア)の形成は未分化性や薬剤抵抗性との関連が示唆されるが、その分子機構はほとんど明らかにされていない。そこで平成24年度は、大腸がん培養細胞株(HT29、HCT116、LoVo、SW480)を用いて、スフェア形成と薬剤抵抗性について検討した。これらの大腸がん培養細胞株は無血清培地で培養するとスフェアを形成し、このときE-カドヘリンの発現上昇が観察され、当該分子による細胞接着の亢進が示唆された。今回検討した細胞株の中で唯一CD133陰性であるSW480細胞から得られたスフェア細胞ではCD133発現が誘導された。CD133発現調節に関与するプロモーターは5つ存在するが、その一部のプロモーターが活性化していた。転写調節因子の探索などの機序解明は今後の課題である。 次にスフェア細胞のストレス抵抗性の獲得を検討した。その結果、5-フルオロウラシルやイリノテカンなどの抗がん剤や過酸化水素による酸化ストレスによる細胞死誘導に対して抵抗性を獲得した。この機序として、CDK阻害蛋白質であるp21CIP1/WAF1やp27KIP1の発現誘導による細胞胞周期停止が見られる細胞株(HT-29とHCT116)があり、細胞増殖の変化しない細胞株(LoVoとSW480)もあった。一方、LoVoとSW480はABCトランスポーター(ABCB1、ABCC1、ABCG2)を発現するが、ABCB1とABCG2遺伝子はスフェア形成で発現上昇した。また、ABCB1に対する阻害剤ベラパミルはスフェア細胞の薬剤耐性を抑制したことから、ABCB1の関与が示唆された。ABCB1は転写レベルで上昇していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に予定していた大腸がん細胞株を用いたin vitro解析の結果から、スフェア形成によるストレス抵抗性の獲得機序の一部が明らかになりつつある。また、細胞株で得られた結果はヒト大腸がん臨床検体を用いた研究からも再現され、今後の進展が期待される。 以上から、現在の達成度は概ね順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1.スフェア形成による治療抵抗性の分子機構の解析(下里担当) 免疫不全マウスを用いたスフェア細胞の異種移植実験を実施する。生着率がスフェア細胞で上昇することが予想されるので、その分子機序を明らかにする。また、低酸素環境での培養および放射線照射に対する抵抗性の獲得があるかどうかを検討し、その分子機序を検討する。 2.スフェア形成によるCD133遺伝子の発現制御機構の解析(担当:下里、上條) SW480細胞におけるスフェア化によるCD133発現誘導について、エピゲノム的制御機構の有無を検討する。具体的には、細胞を脱メチル化剤(5aza-dCなど)およびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(TSAなど)の存在下で培養したときのCD133遺伝子発現の定量およびクロマチン免疫沈降によるヒストン修飾の変化を検討する。また、ヒストンメチル化酵素とヒストン脱メチル化酵素についても着目し、転写活性化型ヒストン修飾がスフェア化によって亢進するかどうか検討する。 3.臨床検体を用いた研究(担当:下里、早田) これまでに得られた知見に基づいて、幹細胞マーカー(EpCAM、CD44、CD133)発現レベルを指標に、各分画のヒト大腸がん初代細胞をセルソーターで精製する。当該細胞におけるCD133やABCB1遺伝子発現やそれらのエピゲノム的発現制御の状況を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用計画は、学会参加や論文投稿などの成果発表に関する費用を除いた全てを実験用試薬やプラスチック製品などの消耗品の購入に充当する。また、次年度も1式が50万円を上回る物品を購入する予定はない。 今年度は国際学会への参加を見送ったため、計上していた予算が次年度使用予定の研究費となった。本年度も国際学会への参加費用を計上しているので、当該研究費は次年度の試薬購入に充当する予定である。 なお、本研究には代表者を含めて3名の参画がある。エフォートの配分を考慮して、研究費の6割を研究代表者が、2割ずつを分担研究者が使用する予定である。
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