研究課題/領域番号 |
24590496
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
下里 修 千葉県がんセンター(研究所), 研究所・発がん研究グループ, 上席研究員 (30344063)
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研究分担者 |
上條 岳彦 千葉県がんセンター(研究所), 研究所・発がん研究グループ, 部長 (90262708)
早田 浩明 千葉県がんセンター(研究所), 医療局・消化器外科, 研究員 (90261940)
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キーワード | 大腸がん / 癌性幹細胞 / スフェア形成 / 治療抵抗性 |
研究概要 |
これまで腫瘍組織は均一な腫瘍細胞によって構成されると考えられてきたが、実際の腫瘍組織は階層性を持つ不均一な腫瘍細胞によることが示された。この流れの中で、その階層性の頂点に立つ特殊な腫瘍細胞である「癌性幹細胞」の存在が示唆され、当該細胞に関する基礎研究が重点的に行われている。浮遊した細胞塊(スフェア)の形成は癌幹細胞の特徴である未分化性や薬剤抵抗性との関連を示唆するが、その分子機構は研究の途上である。昨年度の解析から、ある種の薬剤に対してスフェア細胞が獲得する抵抗性はエネルギー依存的基質排出機能を持つABCB1遺伝子の顕著な発現亢進による可能性が示唆された。そこで、平成25年度は、このABCB1遺伝子の発現調節機構に焦点を当てて解析した。 ヒト大腸がん細胞株(SW480、LoVo)は、専用の培養液でスフェア細胞に分化する。このとき、ABCB1遺伝子の発現量はスフェア細胞で速やかに上昇したが、反対に、当該細胞を培養皿付着細胞に再度分化させると、ABCB1遺伝子の速やかな発現低下が認められた。この可逆的な変化から、我々はエピゲノム的な制御機構が作用していると仮定し、ヒストン修飾酵素群の関与を検討した。その結果、ヒストン脱メチル化酵素の一つであるJHDM1Bは、ABCB1遺伝子プロモーター領域に相互作用するヒストンH3の脱メチル化を介して、当該遺伝子の発現抑制に関与することを見いだした。 一方、5-FUや酸化ストレスに対する抵抗性の獲得はABCB1の発現上昇だけでは説明できない。そこで、培養皿付着細胞とスフェア細胞の間で発現量が変化する遺伝子群ならびにlong non-coding RNAをマイクロアレイによる網羅的発現解析で探索した。得られた結果から、5-FUなどに対する抵抗性獲得への寄与が予想される候補遺伝子(群)を選出している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に予定していた大腸がん細胞株を用いたin vitro解析の結果から、スフェア形成によるストレス抵抗性の獲得機序の一部が明らかになりつつある。さらに、細胞株で得られた結果はヒト大腸がん臨床検体を用いた研究からも再現され、今後の進展が期待される。以上から、現在の達成度は概ね順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1.スフェア化によるCD133遺伝子の発現制御機構の検討(担当:下里、上條) 申請者らが神経芽腫で見いだしたスフェア化によるCD133遺伝子誘導の分子機構を、クロマチン構造の変化(DNAメチル化およびヒストン修飾)による発現制御に着目して検討する。26年度は、スフェア細胞および接着細胞におけるCD133遺伝子プロモーター領域の、ヒストン蛋白質の転写活性化修飾(ヒストン3の第4リシン残基における3重メチル化(H3K4me3)、およびアセチル化H3(H3Ac))、さらに転写抑制修飾(H3K27me3およびH3K9me3)をクロマチン免疫沈降-定量PCR(ChIP-qPCR)法で解析し、当該領域のクロマチン構造を検討する。さらに、スフェア化によって、ヒストン修飾に関与するヒストンアセチル化酵素(HAT)、HDACおよびポリコーム群遺伝子が活性化されるかどうかを、それぞれの酵素活性を測定し評価する。また、siRNAおよびshRNAを用いて各遺伝子をノックダウンすることによって、CD133遺伝子の発現に影響するかどうかを検討する。また、スフェア形成、薬剤抵抗性への影響もあわせて検討する。さらに、当センターで独自に確立したcDNAチップ、アレイCGH、およびHPLCをもとに開発された高速遺伝子解析システム「WAVEシステム」を用いた網羅的な遺伝子発現解析によって、スフェア細胞と接着細胞との間で異なる遺伝子発現パターンを明らかにし、薬剤抵抗性との関連を検討する。 2.臨床検体を用いた検討(担当:下里、早田) レーザーマイクロダイセクションあるいはセルソーターを用いて、ヒト大腸がん組織からEpCAM+CD44+CD133+細胞とEpCAM+CD44+CD133-細胞、あるいはEpCAM+CD44+ABCB1+細胞とEpCAM+CD44+ABCB1-細胞を回収する。ゲノムDNAを抽出して、CD133遺伝子あるいはABCB1遺伝子プロモーター領域のヒストン修飾を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度購入した試薬を効率よく使用できた結果、平成25年度の物品費として予算に計上していた経費に余剰が生じた。試薬には消費期限もあり、次年度は論文投稿も予定しているので、無理な使用を避けた結果、次年度使用額が生じた。 平成26年度は最終年度であるので、成果発表としての学会発表および論文投稿料としての使用を考慮しつつ、それらを除いた全てを実験用試薬やプラスチック製品などの消耗品の購入に充当する予定である。 本研究には代表者を含めて3名の参画がある。エフォートの配分を考慮して、直接経費の6割を研究代表者が、2割ずつを分担研究者が使用する予定である。 なお、平成26年度も1式が50万円を上回る物品を購入する予定はない。
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