研究課題/領域番号 |
24590498
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
池原 譲 独立行政法人産業技術総合研究所, 糖鎖医工学研究センター, 研究チーム長 (10311440)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 腫瘍 / 膵臓がん / 幹細胞 / 免疫応答 |
研究概要 |
本研究では、生じた腫瘍組織から樹立した培養細胞株を用いて、i-a)細胞分化能の異なるがん幹細胞の同定と、i-b)これを区別できるバイオマーカーの探索を実施している。また、発がんに利用した遺伝子をモデルがん抗原とすることで、ii)これまでに開発を進めてきたオリゴマンノース被覆リポソーム(OML)の使用で誘導される抗腫瘍免疫が、がん幹細胞の治療にも有効であるかどうかについても検討を進めている。 平成24年度には、膵組織由来の不死化上皮細胞と、腫瘍組織から樹立した培養細胞株を対象に、各種幹細胞マーカーを利用して幹細胞の同定を進めた。各種マーカーで同定される細胞集団を、フローサイトメーターで分取し、ヌードマウスへの接種およびコラーゲンゲル3次元培養系で評価したところ、幹細胞集団の造腫瘍性を明らかにできた。次に、CD133+/c-Met+分画もしくは、ALDH活性を指標にすることで、分化能の異なるがん細胞株よりそれぞれの幹細胞集団を分取して、i-b)がん幹細胞に特徴的なマーカー分子の探索を実施した。DNAマイクロアレイによる発現解析によって、細胞分化能を特徴づける候補分子群を絞り込むことができ、定量的PCRによって再現性も確認できたところである。 がん免疫に関する実験検討では、研究背景として明らかにしていた「T抗原を発現している同がん細胞株は、同系のB6マウスには生着しないが、villin-creマウスとの掛け合わせでT抗原を大腸上皮特異的に発現させたマウスには生着する」ことの背景メカニズムの検討を行った。腫瘍組織から樹立した培養細胞株が生着したマウスでは、CD4+CD25+Tregと、CD11b+ F4/80+単核球の増加が顕著であり、これら細胞による免疫寛容が関与していることを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
i)分化能の異なるがん幹細胞の同定を試みる課題では、Sphereもしくは腺管構造を形成する幹細胞をぞれぞれ、分化能の異なるがん幹細胞としての分離を進めた。分離した細胞集団を対象に、幹細胞をほかの細胞と区別できるマーカー分子の探索を進め、予定通り、DNAマイクロアレイ解析を終えて、定量的PCRによる再現性の確認を進めているところである。細胞分化能をふまえた幹細胞を特徴づける候補分子について、その絞り込みと市販抗体を用いたタンパクレベルでの検出を進めている状況にある。 ii)これまでに開発を進めてきたオリゴマンノース被覆リポソーム(OML)を使用して誘導される抗腫瘍免疫が、がん幹細胞の治療にも有効であるかどうかを検討する課題では、同系マウスへの移植腫瘍の生着に、CD4+CD25+Tregと、CD11b+ F4/80+単核球による免疫寛容が関与していることを見出すことができている。これらの結果は、腫瘍の生着には、T抗原に対する免疫寛容の成立が重要であること、逆に、OMLなどを用いてT抗原に対する抗腫瘍免疫を誘導することで、腫瘍の増殖を制御できる可能性を示唆している。 以上より、上記i) 、ii)についての研究の進捗はおおむね良好な状況にあり、iii)へと進む上において特段の問題は生じていないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、ii-a)Epitope IVを封入したOMLを、同マウスに投与して免疫したのち、その生着と拒絶の有無の評価を行うなど、腫瘍接種後に誘導される腫瘍免疫について、ELISPOTアッセイとH2-Kbテトラマー染色での評価を実施したいと考えている。 接種したがん細胞株が増殖している組織では強い炎症細胞浸潤があり、これらの多くは、CD4+CD25+TregとCD11b+ F4/80+単核球であることを見いだしている。一方、同がん細胞株では、IL10ファミリー分子の一つであるIL24を、rasの活性化依存性に発現していることを見いだしているので、ii-b)IL24による抗腫瘍免疫抑制の可能性を検討したいと考えている。腫瘍組織から樹立した培養細胞株に、IL24のshRNAを安定発現させてIL24発現を抑制したPDACを樹立し、villin-creマウスとの掛け合わせで作出したマウス(PDAC が生着する)や、同マウスをあらかじめOMLに封入したEpitope IVで免疫したマウスへ接種し、腫瘍の生着と成長、腫瘍組織へのTregやTAMの浸潤を評価したいと考えている。 iii-a) 3次元培養下のkilling評価も実施したいと考えている。免疫しておいたB6マウスの脾臓に誘導されるEpitope IVに対するCTLを、CD8抗体やEpitope IV -H2-Kbテトラマー陽性を指標にして分離し、コラーゲンゲル中で3次元培養したPDACに、加えて観察することを企画している。可能であれば、リアルタイムでとらえることを試みたい。 なお最終年度には、iii-a)の結果を踏まえ、iii-b)In vivoモデルにおけるがん免疫療法の評価へと進みたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に購入を予定していた「微量高速冷却遠心装置(1,100千円)」は、研究の進捗を鑑みて本年度に購入することにしたため、必要額を24年度に繰り越している。25年度は、当該予算を使用して、これを購入する。 また、研究の進捗を鑑みて24年度より繰り越した免疫組織解析試薬購入費450千円は、25年度に予定していた免疫組織解析試薬、細胞培養関連試薬、3次元ゲル内培養試薬、遺伝子解析用試薬の購入費1150千円と合算して使用する。 25年度には、これまでに得られた研究成果を国内及び海外の学会にて発表するとともに、英語論文を完成させて投稿する予定である。計画では必要経費を、24年度と25年度に分けて計上していたところであるが、これに必要な経費は24年度より全額繰り越していることから、国内旅費200千円、海外旅費300千円、英文校正100千円、別刷り代10万円として、25年度分と合わせて、本年度中に使用する。
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