研究課題
膵臓上皮特異的なCre/loxP遺伝子組換えにより、Rbとp53の活性を阻害できる温度感受性T抗原(tsT抗原)とKrasG12Dを同時に発現させることでde novo にPDACを生じるマウスの作製に、我々は成功している。生じた腫瘍組織から樹立した培養細胞株と、tsT抗原のみ発現させたマウスの膵管上皮より樹立した不死化CK19+細胞は、コラーゲンゲル内で3次元的に(3D)培養すると、いずれも、sphere structure (SS)に加えて管状腺管(Tubular Duct) (TD)構造を再現した。本研究では、a) 樹立したがん細胞株と不死化CK19+細胞を、cancer とCell-of-Origin for cancerとして対比し、b) SSとTDを、細胞分化能の異なる幹細胞に由来する細胞集団として対比検討を実施している。24年度に引き続き25年度も、このモデル系を用いてi) 細胞分化能の異なるがん幹細胞の同定と、それを同定できるバイオマーカー探索、ii) がんに対する免疫応答が、がん幹細胞の治療にも有効であるかどうかの検討を、並行して進めた。分化能の異なる細胞集団の比較検討については、これまでに得られた結果を一般化するためにN数を増やすとともに、異なる複数のクローンについて3D培養下でTDとSSを分離するなどして解析し、検証作業を進めた。がんに対する免疫応答については、villin-creマウスとの掛け合わせでT抗原を大腸上皮特異的に発現させたマウスをレシピエントに、樹立したがん細胞株を同所移植することで、すい臓がんの増殖をモニタリングできるモデルを確立している。同モデルの解析を通じてこれまでに、免疫寛容の環境を作り出す制御性T細胞などが移植部位にリクルートされることで、抗腫瘍免疫が抑制されているのであろうと考察している。
1: 当初の計画以上に進展している
i)細胞分化能の異なるがん幹細胞の同定とそれを同定できるバイオマーカー探索、ii)がんに対する免疫応答が、がん幹細胞の治療にも有効であるかどうかの検討を進めた。i) では、がん細胞株と不死化CK19+細胞のそれぞれについて、解析するN数を増やして結果を一般化するために、異なる複数のクローンについて3D培養下でTDとSSを分離して解析を進めた。得られた遺伝子発現の結果は、リアルタイムPCRにより検証しており、その結果、TDとSSに特徴的な発現分子を同定することができた。なお、同定できたこれら分子は、幹細胞マーカーCD133+やc-Met+をあわせて評価することで、TDとSSに特徴的な幹細胞を同定できること確認している。コラーゲンゲル3次元培養において、膵管上皮細胞がTD形成に向かうことを決定づける分子として、TGFβ と同シグナルを制御するco-factor候補を同定できた。in vitroでの実験結果から、TGFβは強力な形態誘導因子であることを結論するとともに、同定できたco-factor候補の機能や役割についての検討を進めている。ii) われわれが樹立したマウスモデルにおいて、移植したがん細胞が定着するには、a) T抗原に対する腫瘍免疫が抑制される必要があること、b) 免疫寛容の誘導が不可欠であることを見出している。これまでの結果から、制御性T細胞や単核球は、腫瘍周囲に浸潤してTGFβを分泌することで、がん細胞へのTGFβの供給源としてなっているのではないかと考えている。興味深いことに、SSとなる膵臓がん細胞株をマウスへ移植したのち、形成した腫瘤より回収して3D培養を行うと、TDへと変化する。SSに含まれるがん幹細胞が、TGFβ刺激によりTDを供給する幹細胞へと変化し、in vitroの実験結果を再現したと考えている。
TGFβシグナルが、幹細胞の分化成熟に働きかけることで、TDを構成する娘細胞を供給している可能性を見出した。がんの周囲に浸潤する制御性T細胞や単核球なども、TGFβをがん細胞に供給していると予想されるので、TGFβの影響解析とその結果の解釈は、慎重に進めていく必要があると考察された。TGFβシグナルがTD形成に向かう幹細胞分化を決定づけていることを一般化するためには、膵臓がん3次元培養モデルで解析すること、そしてCre/loxP遺伝子組換えにより tsT抗原を大腸上皮に発現させることで免疫寛容状態としたマウスをレシピエントとして膵臓がん細胞株を同所移植するマウスモデルにおけるTGFβシグナル活性化を検討するのが適切であろうと考えている。これには、TGFβシグナル阻害による、がんの成長やマウスの生存への効果を検討することを予定している。形成されたTDが、腺管上皮としての構造を形成しているのかについては、超微形態学的手法を用いて評価したいと考えている。また、最終年度に予定していた検討、細胞障害性T細胞のTCR(T細胞受容体)エピトープペプチドであるSV40 T抗原Epitope IVを封入したOML免疫の実験を、予定通り実施する。TGFβが、腫瘍免疫の抑制効果だけでなく、TDの促進や浸潤を制御している可能性があることからTD分化についても評価し、得られた結果を元に、次世代の膵臓がん治療法へと展開する。
1) 外注にて作成を依頼していた3件のキメラマウスの納品が年度を越えことによる。さらに、2) TGFβ刺激によって分化誘導されて出現するTDについて、腺管上皮としての構造を形成しているのかを超微形態学的手法を用いて評価すること、TGFβシグナルを阻害する実験も必要なことが判明した。さらに、TGFβの供給はがんの周囲に浸潤する制御性T細胞や単核球の役割を明らかにしたいと考えると、最終年度に予定していた免疫実験と関連付けて実施すべきと結論できた。以上の理由により、次年度使用額が生じた次第である。1)については、6月初旬に納品が決まっている状況である。2)については、超微形態学的な解析に必要となる試薬、消耗品等で使用するとともに、実験用のマウス購入ならびに飼育費用として使用する。
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