研究課題
基盤研究(C)
これまでの新規抗がんアジュバント開発戦略「アジュバント・エンジニアリング」から得られた5候補化合物(A/B/C/CL/D)のうち、平成24年度は化合物B(h11cと命名)の性質解析を進め、前年度に国内出願した特許内容を拡充し、国際出願を行った。h11cは樹状細胞マーカーであるCD11cに対して親和性のある配列を付与したトル様受容体2リガンド(樹状細胞標的化リポペプチド)である。免疫活性化の起点となる樹状細胞を選択的に活性化し、副作用につながる他細胞の応答を極力低減できると期待して設計した。実際、h11cは既知の人工リポペプチドP2C-SKKKKと同等の抗がん効果を持ちながら、ワクチン投与部位におこる過剰な皮膚炎症を回避することができる。h11cはマウス腫瘍移植モデルにおいて様々なペプチドワクチンとの併用や単独使用でも抗がん活性を確認できた。また、蛍光標識リポペプチドを用いた体内動態解析の結果、h11cは投与部位から速やかに移行し、樹状細胞と共に腫瘍内で検出されたのに対し、P2C-SKKKKはワクチン投与部位の皮膚に蓄積して、好中球の集積を伴う激しい皮膚炎症を持続的に誘導していた。また、脾臓細胞から産生される好中球走化因子を検討したところ、h11c刺激による誘導量はP2C-SKKKKよりも有意に少なかった。この走化因子はCD11c陽性の樹状細胞ではなく、CD11b陽性のマクロファージから産生される。この結果は、h11cの樹状細胞選択性が好中球走化因子の産生を低く抑え、皮膚刺激という副作用の回避に役立つことを示唆する。また、ワクチン投与部位における免疫細胞の過度な集積は、結果として抗がん効果を減弱する恐れがあるため、h11cは副作用回避と有効性の面で理想的なアジュバントであると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度はh11cの副作用回避メカニズム解析および化合物Dの特許性の検討を一部計画していた。化合物Dはワクチン投与部位での過剰炎症が認められたために一時中断し、その副作用を回避可能なh11cを臨床開発すべき第一候補として優先させた。元来、免疫療法はQOLの高い治療法として認識されているが、h11cはこれをさらに改善することができる可能性がある。h11cの解析に注力できたため、副作用回避メカニズムや体内動態についてもかなりの進展があり、これらの結果をベースにh11cを「新規人工設計リポペプチド」として年度内に国際特許出願することができた。計画は順調に進んでいると判断した。
当初の計画では、平成25年度以降は他の候補化合物を重点的に解析する計画であったが、これらは縮小して進める。h11cのアジュバントとして優れた性質がマウス実験で証明でき、特許出願も果たしているため、今後も引き続き、h11cの開発に注力していく。h11cの作用メカニズム解析に加え、さらに有効性を高めるための工夫・併用療法についても検討する。また、h11cのヒト臨床応用を前提に、現在、がん罹患犬を対象として、動物病院での臨床応用を進めている。これらの結果を基に企業提携を図り、ヒト臨床に向けた基盤整備を進める。
化合物Dの解析を一時中断して、h11cの国際特許出願を最優先に進めていた。このため、化合物Dの解析に使用予定であった消耗品(ELISA、抗体など)の物品費が残っている。次年度以降もh11c以外の他候補化合物の解析は少しずつ進める予定であり、次年度研究費の物品費を増額して使用する計画である。(物品費:1,450,000→1,800,000円、旅費:150,000円、人件費・謝金:100,000円、合計:2,050,000円)
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
Int J Cancer
巻: 133(5) ページ: 1107-1118
10.1002/ijc.28114.
http://www.mc.pref.osaka.jp/omc2/genetics.html