申請者はアジュバント・エンジニアリング・プロジェクトと題して、天然のトル様受容体2リガンドであるリポペプチド構造(パルミチン酸2分子により特殊修飾されたシステイン、Pam2Cys)を基に、新規アジュバント物質の人工設計を行ってきた。具体的には、ペプチド配列の付加・置換によって、天然リポペプチドには無い機能を与え、免疫アジュバント活性の増強や副作用回避などの有用性を高めることを目的としている。 本年度は、化合物Dの詳細解析の継続、成果発表を目的として、研究期間を1年間延長した最終年度である。日本がん免疫学会で本課題を発表し、必要なデータがほぼ出揃ったので、現在、論文作成中である。化合物Dは、患者由来のがん細胞を抗原として用いる自家がんワクチン療法を発展させるべく人工設計した物質である。また、細胞接着効率は弱いがサイトカイン産性能の高い化合物Eも得ている。これらは目的の細胞に容易に接着し、その細胞表面を微生物成分で修飾する。この処理により得られる微生物成分修飾がん細胞は、免疫系より細菌と認識され、がん抗原特異的かつ強力な免疫応答を誘導可能なワクチンとなる。本年度は特に、化合物Dの細胞表面修飾が、樹状細胞の抗原取り込み・抗原提示におよぼす影響(in vitro)、複数の腫瘍移植動物実験モデルにおける評価(in vivo)を行った。この結果、接着力よりもサイトカイン産性が有効なケース(移植腫瘍の性質による)もあるが、化合物D/Eが有効であることが明らかとなった。 また、昨年度までに重点的に研究を進めた化合物B(h11c,樹状細胞標的化リポペプチド)に関する特許が登録された(国内)。人工的に付加した樹状細胞選択的反応性により、既知のリポペプチドよりも、より低濃度で抗がん活性を示し(有効性の向上)、ワクチン投与部位・皮膚における過剰炎症の回避が可能である(副作用の回避)。
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