研究実績の概要 |
これまでに、細胞内寄生原虫であるTrypanosoma cruziは、感染宿主細胞のオートファジーを抑制することを明らかにした。原虫感染によりオートファジー経路の隔離膜形成はおこるが、隔離膜が伸長しオートファゴソーム形成過程が抑制されている可能性が示唆された。オートファゴソーム形成にはオートファジー関連タンパク質 (Atg) の一つであるLC3のLC3-IからLC3-IIへの脂質化が重要であり、その過程にAtg7, Atg3が必須である。そこでAtg7, Atg3タンパク質に着目し、T. cruzi感染によるオートファゴソーム形成抑制について検討することを目的とした。 ヒト線維肉腫細胞HT1080細胞に、LC3にGFPを融合した遺伝子 (GFP-LC3) をトランスフェクションしたGFP-LC3発現細胞を樹立した。T. cruzi感染またはグルコース飢餓によりオートファジーを誘導したGFP-LC3発現細胞を用い、Atgタンパク質の発現、局在を調べた。グルコース飢餓12h後ではLC3-IからLC3-IIへの変換がみられたがT. cruzi感染ではみられなかった。感染細胞におけるAtg7, Atg3タンパク質の発現はコントロールと比較すると増加していたがグルコース飢餓細胞と比較すると低かった。また、細胞染色の結果Atg7, Atg3はともに 感染6h後から蛍光強度が増加しLC3との共局在がみられた。また、抗GFP抗体によるpull downアッセイの結果、LC3-Atg3複合体が検出された。以上の結果から、原虫感染細胞では、LC3-Atg複合体は形成されるがその後の脂質化のステップが抑制されることによりLC3-IからLC3-IIへの変換が起こらず、オートファゴソーム形成が抑制される可能性が示唆された。
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