研究課題
当該年度は、日本住血吸虫の成虫が分泌するエクソソームの分泌メカニズムについての研究をメインに行った。感染マウスから回収した住血吸虫成虫は、栄養供給源となる赤血球を加えることで、多くのエクソソームを分泌することを電子顕微鏡レベルにて観察した。さらに、エクソソーム画分から回収してきたRNAをバイオアナライザーで解析したところ、多くの小分子RNAが検出された。これは、従来から知られているようにエクソソーム内には、多くのmiRNA等が封入されていることと一致している。さらに、このRNAから日本住血吸虫特異的なmiRNA(SjmiR-Bantam, SjmiR-3479)を検出することができた。このことから、日本住血吸虫はエクソソーム等の分泌型の小胞を介して、自身のmiRNAを分泌していることが確認された。さらに、この分泌プロセスに関わる機序を明らかにするために、従来から知られているエクソソーム分泌関連分子を各種阻害剤で干渉する実験を行った。特に、哺乳類細胞のエクソソーム分泌には、スフィンゴミエリンをセラミドに代謝するスフィンゴミエリナーゼが関与することが知られている。そこで、この分子の阻害剤であるGW4869を用いて、住血吸虫エクソソーム分泌への影響を調べた、しかし、この分子による阻害効果は確認できなかった。また、カルシウムイオンが分泌に関与することも知られていたので、キレート剤であるBAPTA-AMを添加する実験も同時に行ったが、これもエクソソームの分泌には影響を与えなかった。これらのことから、日本住血吸虫におけるエクソソーム分泌システムには、独自の、または、従来知られていない方法で行われている可能性があると考えられた。
3: やや遅れている
当該年度は日本住血吸虫から分泌されるエクソソームの分泌メカニズムと性状解析を目的としていた。当該年度の成果として、エクソソームの回収とその内容としてのmiRNAの存在を確認し、さらに、分泌の刺激として赤血球の重要性を観察することができた。しかし、阻害剤等を用いた実験では、その分泌に関わっている分子を特定することができなかった。従来効果があると報告のある阻害剤でのエクソソーム分泌が抑制できなかったことから、エクソソームの分泌には、住血吸虫独自のメカニズムの存在を示唆するものとなった。また、性状解析として、分子マーカーであるCD63抗体の作成は未だ成功しておらず、その抗体作成法を工夫する必要がある、また、エクソソーム内のmiRNAをRNA-seqで解析することについても、規定量のmiRNAの回収に及ばず、当該年度は実施できなかった。
現在、エクソソーム内のRNAを高濃度・高品質に回収する方法を検討している。予備実験では、ある種のカラム精製によりmiRNAが高濃度で回収できることがわかり、実際に住血吸虫のエクソソームからのmiRNA抽出を試みる予定である。回収量により、RNA-seqを実施する。この結果から、どのようなmiRNAが多く含まれるかを確かめることで、そのmiRNAの機能や、診断への応用についても検討を行う。同時に、エクソソームの分泌に関わる分子について、更なる検討を行う予定である。特に赤血球の何が分泌に影響を与えているかについて、細かく検討し、阻害剤が使用できるものは用い、分子がはっきりしているものについてはRNAiも検証する。また、エクソソームの伝播機構についての実験も行う予定である、蛍光標識したエクソソームがどのように住血吸虫に取り込まれるか、また、宿主の細胞にも取り込まれるのかについても検討を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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