研究概要 |
タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)の感染は胆管癌を誘発する。極めて高い胆管癌の発生率は流行地において保健医療上重要な問題になっている。胆管癌は高悪性度、低生存率の難治性の癌であり、早期発見を可能にする新たな腫瘍マーカーの開発が望まれている。私たちはタイ肝吸虫感染による胆管癌発癌動物モデルの発癌過程にcDNA マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を実施したところ、いくつかのS100ファミリ遺伝子の発現上昇を確認した。本研究はS100ファミリタンパク(S100A2, S100A4, S100A6, S100A8, S100A9, S100A11, S100A13, S100B, S100P)のタイ肝吸虫感染による胆管癌の腫瘍マーカーとしての可能性を検討した。タイ肝吸虫感染による胆管癌動物モデルにおいて、S100A2, S100A4, S100A6, S100A11, S100A13, S100P及びS100Bの発現は発癌の過程に伴って増加した。その中に、S100A4, S100A6, S100A13及びS100Pは発癌の早期に上昇し、発現動態が癌化の病理進行と一致で、有力の早期診断用候補腫瘍マーカーと考えられる。また、それら遺伝子の発現は肝吸虫流行地由来の78例胆管癌患者の癌組織において、高くなることも検証された。免疫染色の結果は増加したS100A6, S100P, S100A11及びS100A2の発現が腫瘍細胞に局在し、S100の種類および胆管癌タイプによって、染色パターンやが異なることが認められた。臨床病理との相関性を解析した結果は、高い発現が生存率、ステージ、転移と有意義的な相関性があることを示した。さらに、shRNA干渉によるS100A2, S100A4, S100A6およびS100Pの発現をノックダウンするによって胆管癌細胞株の増殖が抑制されることに合わせ、それらのS100タンパクは胆管癌の新たな腫瘍マーカーとして、発癌の解明、診断及び治療に応用することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は計画通りに科学研究を行った。タイ肝吸虫感染による胆管癌動物モデルの感染、サンプル収集、流行地に胆管癌患者の癌組織及び血清サンプルの収集、候補腫瘍マーカーの発癌過程における発現動態の観察、癌組織免疫染色観察、臨床病理や生存との相関性の解析を行った。また、流行地胆管癌患者から分離・設立胆管癌細胞株を用いて、shRNA干渉によるターゲット遺伝子(MFG-E8, S100A2, S100A4, S100A6, S100P、Pdpk1, catenin)の発現をKnockdownするによって、細胞増殖や抗がん剤に対する感受性の検討を試みた。また、キットや市販抗体を用いて、サンドイッチELISA条件などを最適化して、これら候補腫瘍マーカーの血清腫瘍マーカー検出の方法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の続き、肝吸虫流行地由来胆管癌患者の癌組織、血清及び胆汁、感染者及び正常者の血清の収集を続ける。候補腫瘍マーカーの胆管癌患者における発現および組織化学の解析を続ける。確立した腫瘍マーカーの検出方法で、肝吸虫流行地由来胆管癌患者の血清及び胆汁、感染者及び正常者の血清中の各腫瘍マーカー(MFG-E8, S100A6, S100A11, S100P, galectin-1)の濃度を測定し、既知の腫瘍マーカーであるCA19-9、CEAの検出の特異性や感度を比較し、肝吸虫感染による胆管癌の診断に応用性を検討する。
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