研究実績の概要 |
タイ肝吸虫感染は胆管癌を誘発する。その高い発生率、発癌機構の不明及び診断治療の困難であることは流行地において大きな衛生上の問題となっている。私たちの従来の研究は、タイ肝吸虫感染による胆管癌動物モデルにおいて、いくつS100ファミリメンバーの発現が発癌の過程に伴って増加したことを明らかにした。今年度は、S100ファミリのメンバーであるS100Pが腫瘍マーカーとして、胆管癌の診断、予後及び治療への応用可能性を検討した。S100Pの78例肝吸虫流行地由来の胆管癌患者の癌組織における発現は、非腫瘍組織より極めて増加した(平均増加615倍、100%>3倍)。免疫染色の検討は、増加した発現が胆管癌腫瘍細胞の細胞質及び核に局在してあり、胆管癌細胞に特異的であることを示した。さらに、発現は前癌病変胆管にも高くなり、早期診断用腫瘍マーカーの可能性を示唆した。胆管癌患者の血清及び胆汁中のS100P濃度は、タイ肝吸虫感染者及び健康者より高い、検出感度及び特異性はそれぞれ71.4%及び71.7%であった。臨床病理との相関性の解析は、高いS100P発現が生存率、ステージ及び転移と有意義的な相関性があり、独立予後因子であることを示した。また、shRNA干渉によるS100Pの発現のノックダウンは胆管癌細胞の増殖及び移動を抑制し、細胞周期調節因子(p21, p27, Gadd45a, 14-3-3 zeta)の発現を上方調節するによって細胞周期の進行の阻止を起し、また、アポトーシス関連因子(Tnfrsf10a, Tnfrsf10b, Bax)の発現を上方調節するによって胆管癌細胞のアポトーシスを促進した。さらに、S100Pのノックダウンは、胆管癌細胞の抗癌剤であるsunitinib及びapigeninに対する感受性を高めた。本研究の結果は、S100Pがタイ肝吸虫感染による胆管癌の新規腫瘍マーカーとして、診断、予後及び治療への応用が期待される。
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