研究課題
住血吸虫の遊離型DNAは虫や虫卵からの分泌・代謝物由来のDNA断片と考えられ、宿主の血液・尿・唾液等の体液中に存在する。本研究では遊離型DNAを住血吸虫症の活動性感染の診断マーカーとして応用することを目的とする。平成26年度は以下の研究を実施した。フィリピン共和国北サマール州、ダバオデルノルテ州、コンポステラバレー州の日本住血吸虫症有病地(計9か村)において、延べ866名を対象に住民健診を実施し、一部から検体(血清・尿)を収集した。持ち帰った検体からDNAを抽出し、遊離型DNAの検出を試みた。これまでの調査では、抗体保有率および慢性の日本住血吸虫症を示す肝臓の線維化陽性率が高い有病地でも、臨床検体中の遊離型DNAの検出率 は比較的低い傾向にあった。これは集団駆虫などによって活動性感染が実際に減少していることもあるが、検体中のPCR阻害物質や宿主DNAの影響、検体保存方法の不備によるDNA失活の可能性も考えられた。そこで今回、PCR反応試薬中のマグネシウム濃度とdNTPs濃度の上昇や、PCR阻害物質を抑制する増幅試薬の使用によって、検出率が最大45%向上することが出来た。アザイド(終濃度~0.02%)とエタノール(終濃度46.7%)を添加して保存した尿検体からDNAを抽出しPCRを実施した結果、それぞれ15.3%(9/59)、48.3%(29/60)の遊離型DNAが検出され、後者で有意な検出率の上昇がみられた(p<0.01)。また、室温保存6年経過後のエタノール処理尿からも遊離型DNAの検出を確認した。以上の結果より、比較的安価かつハイテクすぎない方法でも、電気の供給やコールドチェーンが不安定な有病地からの検体の回収・保存の問題を改善し、有病地の活動性感染状況をより正確に把握できることが見込まれた。本法の発展によって、将来的に住血吸虫症有病地の対策への貢献が期待できる。
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週刊日本医事新報
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Acta Tropica
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10.1016/j.actatropica.2014.05.003