研究課題/領域番号 |
24590511
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小林 正規 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70112688)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 赤痢アメーバ / Bacteroides fragilis / Citrobacter freundii |
研究概要 |
赤痢アメーバ増殖促進効果を有す偏性嫌気性菌(Bacteroides fragilis)の共棲下で、臨床分離株が当該年度に新たに2株確立され、その内の1株の分離に際し、赤痢アメーバの病原性因子のひとつであるGal/GalNAcレクチン(腸粘膜への接着因子)とそれに対する特異抗体の結合を阻害(競合反応)する細菌の存在を見出し、その阻害を起こした菌が肺炎桿菌であることが同定された。赤痢アメーバの解糖系嫌気発酵に関わる酵素のひとつ(ピルビン酸オキシドレダクターゼ:嫌気性菌由来と考えられている)と肺炎桿菌の同酵素との遺伝子配列の相同性が極めて高いことが知られており、肺炎桿菌が赤痢アメーバと系統発生的に関わりの深い細菌であること、さらにその上流のピルビン酸フォスフェート2キナーゼとBacteroides sp.との相同性が高いことが知られていることからも興味深い結果であった。また接着因子とされるレクチンの90%以上がアメーバ細胞外の培養上清可溶性分画に見出されることも見出した。この分泌型レクチンと抗Gal/GalNAcレクチンモノクローナル抗体との結合反応阻害効果について、さらに、より莢膜組成が明らかで、血清型も明らかな2つのタイプの肺炎球菌の標準株について検討を行った。その結果莢膜の厚いタイプのものより薄いタイプの肺炎球菌により高い阻害効果があることを見出した。現在この阻害効果を示す物質本態の解明と、B. fragilisのCBAマウス盲腸への赤痢アメーバの感染促進効果を利用して作成した赤痢アメーバ腸持続感染モデルを用いて、盲腸粘膜(特にムチン層)での分泌型レクチンの局在を明らかにすると共に肺炎桿菌、肺炎球菌そしてB. fragilisの局在を、免疫組織化学的手法を用いて同時に解析するための準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の研究計画に基づき、当初B. fragilis の赤痢アメーバの増殖促進因子として菌体膜表面のリポ多糖を想定し抽出を試み、粗抽出された多糖からわずかではあるが増殖促進効果と肝膿瘍形成能の亢進を認めた。しかしながら顕著な腸管内増殖と腸粘膜への接着促進には、生きて増殖するB. fragilis の存在が必要であり、またリポ多糖と共に他の成分も複合的にかかわることもわかってきた。B. fragilisは代謝産物として酪酸を産生し、その70%が大腸上皮細胞のエネルギー源として消費されることも知られている。B. fragilis のリポ多糖を標的とした抽出と精製の達成度は80%近いと考えられたが、生きたB. fragilis に比較して増殖促進とvirulenceを高める効果を充分に得ることができなかったため、達成度はやや遅れていると判定した。但し、新たに赤痢アメーバの分泌型接着因子とその結合を競合的に阻害すると考えられる肺炎桿菌の莢膜多糖の存在を見出したことから、次年度以降の研究に新たな進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
赤痢アメーバ標準株(HM-1:IMSS)は長期の無菌培養に伴い、細菌共棲培養に適応し難くなってきており、リン脂質を多く含むEgg yolk medium にさらにEscherichia coliとB. fragilis 共棲下させることで初めて継代培養が可能となる。但し、CBAマウス盲腸持続感染モデルではハムスター肝にpassage することでvirulence を高めたHM-1株をB. fragilis と Citrobacter freundii と共に盲腸に接種することで、腸粘膜に接着が容易となり、腸粘膜から必須な栄養源を摂取することで安定して増殖する。次年度は研究実施計画に沿った、腸粘膜接着促進因子の同定と解析を目的とした実験と共に、赤痢アメーバの分泌型レクチンと肺炎桿菌、肺炎球菌との関わり合いの解析を目的とした実験も並行して行う予定である。次年度研究方策として、以下のような予備仮説のもとに次年度は研究の計画と実施を行う予定である:赤痢アメーバが大腸腸管内でB. fragilis や C. freundiiのような増殖促進効果を有す腸内細菌存在下で増殖し、同時に分泌型レクチン(接着因子)を腸管内に分泌しそのレクチンの一部は腸粘膜に接着する。腸粘膜に接着したレクチンに、さらにレクチン結合性膜多糖を有する腸内細菌(肺炎桿菌等)が接着し、そこに赤痢アメーバも二次的に接着することで、ムチン層のバリヤーの突破が容易となり、最終的に腸粘膜への接着と増殖を可能とする。現在この仮説のための準備を開始している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主に物品費で使用予定である。主な使用目的は以下の通りである。 1.嫌気性菌培養のための培地、嫌気ガスボンベ、嫌気培養装置、嫌気ジャー等の購入。*培養対象となる嫌気性菌はB. fragilis 以外は通性嫌気性菌であるが、赤痢アメーバの主要な寄生場所である回盲部は嫌気度が高く、赤痢アメーバのエネルギー代謝経路も切り替わることから共棲細菌の嫌気培養が必要となる。2.デイスポフラスコ、ピペット等の培養用器具の購入。3.赤痢アメーバ無菌培養用培地作成試薬、血清、ビタミン類の購入。*赤痢アメーバは腸内細菌に依存した腸管内で増殖するステージと腸粘膜より侵入し無菌的に増殖する組織内増殖型があり、無菌培養系は組織内増殖系に近い環境を提供する。4.実験動物(CBAマウス、ハムスター、スナネズミ等)の購入。5.生化学的(抽出、精製、電気泳動等)、免疫組織化学、遺伝子解析のための器具、試薬類、抗体等の購入。*肺炎桿菌は莢膜多糖を豊富に産生する代表的な細菌としても知られており、腸粘膜に接着する性質を有す腸内細菌の膜成分の解析も行う予定である。6.病理組織標本作製のための器具、試薬類の購入。*レクチンやB. fragilis, 肺炎桿菌の局在を免疫組織化学的に解析するのに必要となる。7.英文論文投稿のための英文校正費。 *赤痢アメーバ腸粘膜接着因子と競合的に結合阻害を起こす腸内細菌関連の英文論文の投稿を予定しているため、英文校正が必要となる。
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