研究課題/領域番号 |
24590515
|
研究機関 | 独立行政法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
安田 加奈子 (駒木 加奈子) 独立行政法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (50415551)
|
キーワード | マラリア / 転写制御 / 転写因子 / 細胞周期 |
研究概要 |
マラリア原虫の転写制御機構の分子機構は全くといって良いほど解明されていない。申請者はマラリア原虫の一般的なhouse keeping geneの発現制御のモデルケースとして、prx遺伝子の赤血球内ステージにおける転写制御の分子機構について詳細な解析をおこない、時期特異的に働くcis-elementおよびこれに特異的に結合する核内因子QF122(以下、この分子をprx regulatory element binding protein: PREBPとする)を同定した。本研究ではPREBPの作用機序の詳細な解析によって原虫転写制御の独自性を解明することを目的とする。 今年度はPREBPに対する特異的抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)をおこない、原虫の核内の染色体上でPREBPがprx遺伝子のcis-elementと結合していることを証明した。さらに、ChIPによって得られたDNAを次世代シーケンサーによって網羅的に解析することによって、PPEBPによって制御される、prx以外の遺伝子の候補をいくつか見出した。PREBPタンパクの構造上の特徴として、4つのK homology (KH) domainを持つことが挙げられるが、N末側からこれらのドメインを順に欠損させたPREBP変異体の原虫細胞内での転写活性化能を解析したところ、4つのKH domainを全て欠損させると転写活性化能が約80%減弱するが、N末側から2つのKH domainのみを欠損させたものでは、wild typeのPREBPと比較して殆ど転写活性化能に変化が無いことがわかった。これらの結果から、PREBPの転写活性化能にはC末側の2つのKH domainが重要であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の最大の目標は、抗PREBP抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)をおこない、原虫細胞内におけるprxのcis-elementとPREBPの特異的結合を検証することであったが、この目標は達成することができた。さらにChIPによって得られたDNAを次世代シークエンサーによって網羅的に解析し(ChIP-Seq)、PREBPが結合する遺伝子cis-element(prx以外)の候補をいくつか得ることができた。また、PREBPの転写活性化能に必要なドメインを絞り込むことが出来た。 ChIP-Seqによって得られた候補原虫遺伝子が実際にPREBPによるコントロールを受けているのかについての確認、PREBPの働きをコントロールする分子修飾の解明、さらにPREBPの結晶化の条件の探索については次年度以降の課題となるが、研究全体としておおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
・ChIP-Seqによって得られたPREBPによる制御のターゲット候補遺伝子が、PREBPによって転写が促進されるのか、原虫細胞を用いたルシフェラーゼアッセイによって確認する。 ・これまでに確立できなかったPREBPの過剰発現株をProteoTuner Shield システム(Clontech社)を利用することによって樹立する。これは、PREBPに不安定化ドメイン(DD)を融合し、原虫に過剰発現させるものである。過剰発現させたPREBP-DDは原虫のプロテアソーム系によって直ちに分解され、原虫の表現型には影響を与えないと予測される。この原虫の培養に膜透過性の低分子リガンドShield1を添加すると、Shield1はDDに結合し、PREBP-DDをプロテアソーム分解から保護する。この系によって、原虫におけるPREBPの過剰発現のオン・オフを特異的に制御できると期待される。この系によってPREBPの過剰発現時におけるprx遺伝子の発現の変化を解析し、PREBPがどの様にprx遺伝子の発現に寄与しているのか明らかにする。さらにPREBPがprxの他にどのような遺伝子の調節をおこなっているのかをゲノムワイドに探索する為に、PREBPの過剰発現時の赤血球内寄生期各ステージにおけるトランスクリプトーム解析をおこなう。 ・PREBPが原虫細胞内で作用するために、どのような修飾を受けているのかを明らかにするために原虫核抽出物とPREBPの抗体を用いた免疫沈降をおこなう。沈降産物をリン酸化、ユビキチン化、アセチル化等の各種翻訳後修飾を検出する抗体を用いたウエスタンブロットによって解析し、これらの修飾の有無を検出する。 ・PREBPの転写活性化能に必要なドメインをさらに絞り込んで決定し、決定された必要なドメインの結晶化の条件を検討する。
|