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2012 年度 実施状況報告書

外来遺伝子によるMRSAの病原性調節機構に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 24590519
研究機関東京大学

研究代表者

垣内 力  東京大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (60420238)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワードpsm-mec / MRSA / 市中分離型MRSA / 病院分離型MRSA / AgrA / 細胞外毒素 / 翻訳 / 機能性RNA
研究概要

本研究の目的は、新規機能性RNA psm-mecによるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)の病原性の制御機構の解明である。既に代表者らは、psm-mec RNAの発現により、黄色ブドウ球菌の細胞外毒素PSMαのmRNA量が減少することを既に見出していた。細胞外毒素PSMα遺伝子の転写は転写因子であるAgrAによって促進されることが知られている。本研究課題では、psm-mec RNAを発現させた黄色ブドウ球菌において、AgrAのタンパク質量が減少していることが明らかとなった。psm-mec RNAがAgrAの翻訳を抑制するかについて検討を行うために、誘導性のプロモーターの下流に結合させたagrA遺伝子に対するpsm-mec RNAの効果を検討した。その結果、psm-mec RNAは誘導性プロモーター下のagrA遺伝子の発現を抑制した。さらに、psm-mec RNAは試験管内で合成したagrA mRNAに対して特異的に結合した。また、agrA mRNAに対する結合活性を失わせた変異型psm-mec RNAは、AgrAの翻訳抑制効果とPSMαの発現抑制効果を失った。従って、psm-mec RNAはagrA mRNAに対して特異的に結合することにより、その翻訳を抑制すると考えられる。
psm-mec RNAによるMRSAの病原性抑制効果の有無がMRSAの病原性の違いを説明するかを検討するために、関東地域の病院由来のMRSAのpsm-mecの変異と細胞外毒素PSMαの発現量の相関を検討した。その結果、psm-mecに変異を有する菌株が全体の30%見出され、それらの菌株では毒素産生量が増大していることが明らかとなった。したがって、psm-mecによるMRSAの病原性抑制効果の有無がMRSAの菌株間の病原性の違いを説明すると考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

psm-mec RNAのターゲットの同定が本研究課題の目的であった。機能性RNAのターゲットはRNAとは限らず、またRNAであったとしても、標的を捉える効果的な研究手法があまりないため、機能性RNAのターゲットの同定は難しい。研究代表者は、psm-mec RNAを発現させた細胞におけるタンパク質の発現パターンの変化とin silicoにおけるターゲット予測から、psm-mec RNAの標的を同定することに成功した。これは当初予定していた期間よりも早い段階での決着であった。
また、研究代表者らは欧米で健常人に感染症を引き起こす強毒型MRSA(市中分離型MRSA)においてpsm-mecが存在しないため、psm-mecの不在がMRSAの高病原性化の原因であるという仮説をたてた。この仮説の検証のため、市中分離型MRSAにpsm-mec RNAを発現させたところ、市中分離型MRSAの病原性が抑制されることが見出された。また、低病原性の病院分離型MRSAからpsm-mecを取り除くと、病原性が上昇することを見出した。さらに、日本で分離される病院分離型MRSAの約30%がpsm-mecに変異を有し、その結果高病原性化していることを見出した。従って、psm-mecはMRSAの病原性の強弱を決定づける要因であることが明らかとなった。

今後の研究の推進方策

psm-mecを人為的に取り除いた病院分離型MRSAでは毒素産生量が増大するものの、依然として強毒型の市中分離型MRSAの毒素産生量には及ばない。従って、psm-mec以外の病原性抑制因子が病院分離型MRSAには存在していると考えられる。新たな病原性抑制因子を同定する事が今後の研究推進の方向性である。具体的には市中分離型MRSAと病院分離型MRSAのゲノム情報の比較により、病院分離型MRSAに特異的な遺伝子を検索することを予定している。

次年度の研究費の使用計画

該当なし

  • 研究成果

    (15件)

すべて 2013 2012 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Mobile Genetic Element SCCmec-encoded psm-mec RNA Suppresses Translation of agrA and Attenuates MRSA Virulence2013

    • 著者名/発表者名
      Kaito C, Saito Y, Ikuo M, Omae Y, Mao H, Nagano G, Fujiyuki T, Numata S, Han X, Obata K, Hasegawa S, Yamaguchi H, Inokuchi K, Ito T, Hiramatsu K, Sekimizu K
    • 雑誌名

      PLoS Pathog.

      巻: 9(4) ページ: e1003269.

    • DOI

      10.1371/journal.ppat.1003269.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Lipopolysaccharide O-antigen of enterohemorrhagic Escherichia coli O157:H7 is required for killing both insects and mammals2012

    • 著者名/発表者名
      Miyashita A, Iyoda S, Ishii K, Hamamoto H, Sekimizu K, Kaito C
    • 雑誌名

      FEMS Microbiol Lett.

      巻: 333(1) ページ: 59-68.

    • DOI

      10.1111/j.1574-6968.2012.02599.x.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Inhibition of colony-spreading activity of Staphylococcus aureus by secretion of δ-hemolysin2012

    • 著者名/発表者名
      Omae Y, Sekimizu K, Kaito C
    • 雑誌名

      J Biol Chem.

      巻: 287(19) ページ: 15570-9.

    • DOI

      10.1074/jbc.M112.357848.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Utilization of a silkworm model for understanding host-pathogen interactions2012

    • 著者名/発表者名
      Kaito C, Yoshikai H, Sekimizu K
    • 雑誌名

      Invertebrate Survival Journal

      巻: 9 ページ: 163-168

    • 査読あり
  • [学会発表] カイコ病態モデルを利用した医薬品の探索研究2013

    • 著者名/発表者名
      浜本洋、石川繭子、瀬筒秀樹、坪田拓也、片岡啓子、松本靖彦、垣内力、関水和久
    • 学会等名
      日本薬学会 第133年会
    • 発表場所
      横浜
    • 年月日
      20130327-20130330
    • 招待講演
  • [学会発表] カイコにおいてリポ多糖を認識するブースター反応が感染防御に寄与する2013

    • 著者名/発表者名
      宮下惇嗣、関水和久、垣内力
    • 学会等名
      第86回日本細菌学会総会
    • 発表場所
      千葉
    • 年月日
      20130318-20130320
  • [学会発表] 16S rRNA メチル化酵素 RsmI は黄色ブドウ球菌の病原性に寄与する2012

    • 著者名/発表者名
      久間達彦、木村聡、鈴木勉、関水和久、垣内力
    • 学会等名
      第85回日本生化学会大会
    • 発表場所
      福岡
    • 年月日
      20121214-20121216
  • [学会発表] 黄色ブドウ球菌のヘム取り込み機構は、糖尿病状態の宿主に感染するために必要である2012

    • 著者名/発表者名
      松本靖彦、宮崎真也、林陽平、石井雅樹、坂上徹、垣内力、関水和久
    • 学会等名
      第57回日本ブドウ球菌研究会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20120921-20120922
  • [学会発表] RNA3'-末端ヌクレオチドの構造変換を介した遺伝子発現制御2012

    • 著者名/発表者名
      沼田俊介
    • 学会等名
      第11回次世代を担う若手ファーマ・バイオフォーラム2012
    • 発表場所
      福岡
    • 年月日
      20120915-20120916
  • [学会発表] psm-mec RNAはagrAの翻訳を抑制し、MRSAの低病原性化を導く2012

    • 著者名/発表者名
      齋藤 祐樹
    • 学会等名
      第11回次世代を担う若手ファーマ・バイオフォーラム2012
    • 発表場所
      福岡
    • 年月日
      20120915-20120916
  • [学会発表] Isd-mediated heme utilization in Staphylococcus aureus is required for infection in diabetic hosts2012

    • 著者名/発表者名
      Yasuhiko Matsumoto, Shinya Miyazaki, Yohei Hayashi, Toru Sakagami, Masaki Ishii, Chikara Kaito, and Kazuhisa Sekimizu
    • 学会等名
      The 12th Awaji International Forum on Infection and Immunity
    • 発表場所
      Hyogo
    • 年月日
      20120911-20120914
  • [学会発表] 可動遺伝要素SCCmec にコードされるpsm-mec RNA がagrA の翻訳を 抑制しMRSA を弱毒化する2012

    • 著者名/発表者名
      垣内力、齋藤祐樹、幾尾真理子、大前陽輔、毛瀚、長野源太郎、藤幸知子、小幡佳津明、長谷川節雄、山口博樹、猪口孝一、平松啓一、関水和久
    • 学会等名
      第24回微生物シンポジウム
    • 発表場所
      大阪
    • 年月日
      20120903-20120904
  • [学会発表] 高血糖カイコ感染モデルを用いた糖尿病宿主に対する感染に必要な細菌の遺伝子の同定2012

    • 著者名/発表者名
      松本靖彦、宮崎真也、林陽平、坂上徹、石井雅樹、山岸徹、大西忠博、垣内力、関水和久
    • 学会等名
      第6回細菌学若手コロッセウム
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20120808-20120810
  • [学会発表] Isdシステムを介したヘムの獲得が糖尿病宿主に対する黄色ブドウ球菌の病原性に必要である2012

    • 著者名/発表者名
      林陽平、松本靖彦、宮崎真也、坂上徹、石井雅樹、垣内力、関水和久
    • 学会等名
      第6回細菌学若手コロッセウム
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20120808-20120810
  • [備考] 遺伝子変異による細菌の暴走 ―機能性RNAの喪失によりMRSAは高病原性化する―

    • URL

      http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_250422_j.html

URL: 

公開日: 2014-07-24  

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