研究課題
本研究の目的は、新規機能性RNA psm-mecによるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)の病原性の制御機構の解明である。既に代表者らは、psm-mec RNAの発現により、黄色ブドウ球菌の細胞外毒素PSMαのmRNA量が減少することを既に見出していた。細胞外毒素PSMα遺伝子の転写は転写因子であるAgrAによって促進されることが知られている。本研究課題では、psm-mec RNAを発現させた黄色ブドウ球菌において、AgrAのタンパク質量が減少していることが明らかとなった。psm-mec RNAがAgrAの翻訳を抑制するかについて検討を行うために、誘導性のプロモーターの下流に結合させたagrA遺伝子に対するpsm-mec RNAの効果を検討した。その結果、psm-mec RNAは誘導性プロモーター下のagrA遺伝子の発現を抑制した。さらに、psm-mec RNAは試験管内で合成したagrA mRNAに対して特異的に結合した。また、agrA mRNAに対する結合活性を失わせた変異型psm-mec RNAは、AgrAの翻訳抑制効果とPSMαの発現抑制効果を失った。従って、psm-mec RNAはagrA mRNAに対して特異的に結合することにより、その翻訳を抑制すると考えられる。psm-mec RNAによるMRSAの病原性抑制効果の有無がMRSAの病原性の違いを説明するかを検討するために、関東地域の病院由来のMRSAのpsm-mecの変異と細胞外毒素PSMαの発現量の相関を検討した。その結果、psm-mecに変異を有する菌株が全体の30%見出され、それらの菌株では毒素産生量が増大していることが明らかとなった。したがって、psm-mecによるMRSAの病原性抑制効果の有無がMRSAの菌株間の病原性の違いを説明すると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
psm-mec RNAのターゲットの同定が本研究課題の目的であった。機能性RNAのターゲットはRNAとは限らず、またRNAであったとしても、標的を捉える効果的な研究手法があまりないため、機能性RNAのターゲットの同定は難しい。研究代表者は、psm-mec RNAを発現させた細胞におけるタンパク質の発現パターンの変化とin silicoにおけるターゲット予測から、psm-mec RNAの標的を同定することに成功した。これは当初予定していた期間よりも早い段階での決着であった。また、研究代表者らは欧米で健常人に感染症を引き起こす強毒型MRSA(市中分離型MRSA)においてpsm-mecが存在しないため、psm-mecの不在がMRSAの高病原性化の原因であるという仮説をたてた。この仮説の検証のため、市中分離型MRSAにpsm-mec RNAを発現させたところ、市中分離型MRSAの病原性が抑制されることが見出された。また、低病原性の病院分離型MRSAからpsm-mecを取り除くと、病原性が上昇することを見出した。さらに、日本で分離される病院分離型MRSAの約30%がpsm-mecに変異を有し、その結果高病原性化していることを見出した。従って、psm-mecはMRSAの病原性の強弱を決定づける要因であることが明らかとなった。
psm-mecを人為的に取り除いた病院分離型MRSAでは毒素産生量が増大するものの、依然として強毒型の市中分離型MRSAの毒素産生量には及ばない。従って、psm-mec以外の病原性抑制因子が病院分離型MRSAには存在していると考えられる。新たな病原性抑制因子を同定する事が今後の研究推進の方向性である。具体的には市中分離型MRSAと病院分離型MRSAのゲノム情報の比較により、病院分離型MRSAに特異的な遺伝子を検索することを予定している。
該当なし
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