研究課題/領域番号 |
24590522
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河村 伊久雄 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20214695)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 結核菌 / マクロファージ / RD1 / IL-1a / カルパイン |
研究概要 |
本研究の目的は、結核菌ゲノム上の病原性関連遺伝子領域RD1が、結核菌感染後の宿主防御免疫の誘導に与える影響を解明することにある。これまでの研究で、RD1は感染マクロファージからのIL-1βおよびIL-18産生に関与することを明らかにしてきた。さらにサイトカイン産生応答について解析を進めたところ、マクロファージに結核菌を感染させると強いIL-1α産生が誘導されるが、RD1欠損株を感染させてもIL-1α産生が誘導されないことから、RD1はIL-1α産生誘導にも重要な役割を果たすことが示された。しかし、RD1欠損株の感染でも野生株の感染と同程度にpro-IL-1αの発現が誘導された。IL-1αがpro-IL-1αから成熟型IL-1αに変換され、培養上清中に分泌されるためにはカルパインの活性化が必要となる。そこで、マクロファージに野生株とRD1欠損株を感染させ、その後のカルパイン活性化の程度を測定した。その結果、結核菌野生株はカルパインの活性化を強く誘導したが、RD1欠損株にはその活性が認められなかった。また、野生株の感染ではカルパインの活性化に必要な細胞内カルシウム濃度の上昇が認められたが、RD1欠損株の感染では細胞内カルシウム濃度の上昇は著しく弱いものであった。さらに、カルシウムイオノフォアであるA23187存在下でマクロファージにRD1欠損株を感染させると、IL-1α産生が有意に増強することが示された。これらの結果から、RD1は結核菌感染マクロファージで誘導されるpro-IL-1αの発現には影響を及ぼさないが、細胞内カルシウム濃度の上昇を介してカルパインの活性化を誘導し、IL-1αの成熟化と分泌に関与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RD1は、結核菌の分泌装置ESX1の構成成分や、その分泌因子をコードするESX1領域の一部である。結核菌は、その病原性や宿主免疫応答の誘導に関与する因子を、ESX1システムを介して分泌するものと考えられており、RD1欠損株ではこのESX1分泌システムが機能していない。RD1によるマクロファージ機能修飾に関する解析から、RD1はミトコンドリア膜を傷害してATP合成を抑制することにより感染マクロファージにネクローシスを誘導すること。また、RD1は細胞質膜のカリウムイオンやカルシウムイオンの透過性に影響し、その結果カスパーゼ1やカルパインの活性化が誘導されることがわかってきた。これらの結果は、RD1によるマクロファージの機能修飾には、ESX1を介して分泌される結核菌因子が関与することを示唆するものである。さらに、ESX5分泌システムがESX1と協調して、マクロファージ機能を阻害することが最近報告された。そこで、その分子メカニズムを明らかにするため、ESX1およびESX5を介して分泌される結核菌因子を発現するマクロファージ細胞株の樹立を試みた。しかし、今のところ解析に使用しうる細胞株を樹立するまでに至っていない。これは主に、電気穿孔法による遺伝子導入に汎用される上皮細胞系細胞株に比較して、マクロファージを用いた場合にはその効率が悪いことに原因がある。また、遺伝子発現に用いたCMVプロモーターの活性が弱い可能性が示されている。今後、これらの問題点を改善し、より効率のよい遺伝子導入法を用いて、結核菌因子を安定して発現する細胞株を作製する。
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今後の研究の推進方策 |
マクロファージ細胞質内には異物識別受容体があり、導入した遺伝子に反応してマクロファージはアポトーシスに陥る。各種阻害剤を用いても、電気穿孔法による遺伝子導入ではマクロファージの細胞死を抑制することができない。そこで、レンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行う。また、ウイルス由来CMVプロモーターの代わりに宿主細胞由来のEFプロモーターを用いて発現ベクターを構築し、マクロファージ細胞株を作製する。細胞株が樹立できたならば、結核菌因子を発現させた場合のマクロファージのサイトカイン産生応答や、細胞質膜傷害の程度を調べ、各種結核菌分泌因子がどのような機能を有しているのかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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