研究課題/領域番号 |
24590522
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河村 伊久雄 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20214695)
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キーワード | 結核菌 / マクロファージ / ASC / JNK / Syk |
研究概要 |
これまでの研究成果から、結核菌に対する感染防御の誘導にはApoptosis-associated speck-like protein containing caspase recruitment domain(ASC)が関与することが示されている。また、カスパーゼ1やNLRP3欠損マウスでは感染後に誘導される感染防御応答に低下が見られないことから、ASCはインフラマソーム形成やカスパーゼ1の活性化を介さずに感染防御の誘導に関与することが示唆される。そこで、インフラマソーム形成を介さない場合にASCの活性化がどのような機序で誘導されるのかについて解析した。その結果、ASCは特定のチロシン残基がリン酸化されると凝集し、ASCスペックを形成することが明らかになった。さらにこの機序について詳細に解析したところ、ASCのリン酸化にはプロテインキナーゼであるc-jun N-terminal kinase (JNK)およびSpleen tyrosine kinase (Syk)が関与し、これらキナーゼによりASCの144番目のチロシン残基がリン酸化されることが明らかとなった。また、144番目のチロシン残基の変異体を用いた解析から、同アミノ酸のリン酸化がASCスペック形成に重要であることが示された。さらに、尿酸投与により実験的に誘導される炎症反応がSykおよびJNK非存在下では有意に抑制される事から、これらプロテインキナーゼはin vivoにおいてもASCスペック形成に関与することが示された。ASCスペックはカスパーゼ1を呼び寄せ、その活性化を誘導する場として働くことが示されている。今のところ、カスパーゼ1以外にASCスペックと会合する分子を特定することはできていないが、防御免疫の成立に関わるシグナル経路を担う分子の活性化にASCスペックが関与する可能性は大きいものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ASC欠損マウスは結核菌に感受性で、感染後早期に死亡する。また、感染病巣となる肺では好中球およびマクロファージの著明な浸潤が認められ、壊死を伴う強い炎症反応が誘導される。この機序を明らかにするため、感染4週後の肺におけるサイトカイン産生を測定した。その結果、ASC欠損マウスの肺ではIL-1bおよびTNF-aの強い産生が認められる一方で、IFN-gおよびIL-12p40産生量に違いは認められなかった。また、感染細胞の細胞死に伴うIL-1a放出量の増加が観察された。しかし、今のところ結核菌に対する感染防御におけるASCの重要性を説明しうる現象を捉えるまでに至っていない。今後さらに細胞レベル、サイトカイン産生レベルおよび分子レベルで解析を進めていく必要がある。 結核菌分泌因子のマクロファージ機能への影響を解析する目的で、それら因子の遺伝子を挿入した発現ベクターをマクロファージ株にトランスフェクトして結核菌因子を産生する細胞株の樹立を試みている。いくつか細胞株は得られたが、発現レベルの安定した株を得ることができていない。これは複雑なタンパク質発現系用いていることが原因の一つであると考えられるため、新たなシステムへの変更を考慮する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
抗結核感染防御は、Th1細胞を中心とした細胞性免疫が主体となる。しかし、ASC欠損マウスでは、結核菌に対するTh1細胞の分化が抑制されることが示されている。そこで、ASCがどのような機序でTh1細胞の分化に寄与するのかを明らかにすることが、今後の主要な課題となる。 これまで、テトラサイクリン存在下でのみ結核菌因子の発現を誘導するタンパク質発現ベクター系を用いてきた。この発現系では2種類のプラスミドをトランスフェクトする必要があり、発現レベルの安定性に問題があった。そこで、本年度は1種類のプラスミドだけで蛋白質の発現制御が可能なベクター系を用いる。また、これまで遺伝子導入に電気穿孔法を用いてきたが、新たに開発されたマクロファージに応用可能なトランスフェクション試薬を用いて遺伝子導入を行う。細胞株が樹立できたならば、結核菌因子を発現させた場合のサイトカイン産生応答や細胞質膜傷害の程度を調べ、各種結核菌因子の機能を明らかにする。
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