グラム陰性菌が宿主の自然免疫応答を回避するために、細菌リポ多糖LPSのアシル基数を減少させることが有効であることを、ヒト細胞による炎症性サイトカイン産生応答を指標として明らかにすることが前年度までにできた。最終年度である今年度は宿主細胞による菌の貪食を指標にして研究を進め、野生株に比べてアシル基数減少変異株に対する貪食効率が有意に低下することを見出した。しかもこの低下はサイトカイン応答の場合とは異なり、LPS受容体であるTLR4には非依存的であることや、マウス細胞でもヒト細胞と類似の応答が見られる事もわかった。更に、貪食の前段階である菌と細胞との接着に関して検討したところ、アシル基数減少変異株では細胞への接着菌数が野生株に比べて低下することも分かり、この段階で既に差が出る事を示す結果が得られた。これらのことから、この貪食回避効果は宿主細胞の貪食受容体を介する特異的応答の関与というよりむしろ菌の疎水性減少により宿主細胞表層の膜脂質との疎水性相互作用が減少するという非特異的な作用の関与が大きく反映されるのではないかと考えている。 前年度までに検討して来たサイトカイン応答は、貪食された菌を宿主細胞が細胞内で殺菌、排除する段階で重要な役割を果たすと考えられるが、今年度の研究では宿主細胞が感染菌を捕える最初の段階ですでにアシル基減少変異株は捕獲され難くなっている事を指摘できた。前年度までの結果と今年度の結果とを合わせると、これら両段階で相乗的な効果を生じさせることができると考えられ、宿主自然免疫応答からの回避にアシル基数減少が極めて効果的に機能できる仕組みであることを明らかにすることができた。
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