研究課題
近年、システイン代謝に関わる酵素であるシスタチオニン beta-シンターゼ(CBS)やシスタチオニン gamma-リアーゼ(CSE)により産生される硫化水素関連物質が様々な生理機能制御に関わることが分かってきた。本研究では、細胞の恒常性維持に重要な役割を果たしているオートファジーに焦点をあて、その硫化水素関連物質による制御の分子機構を解析する。昨年度までにCBSやCSEのノックダウンによるオートファジー誘導とそのメカニズムを明らかにし、さらに、硫化水素ドナーがサルモネラ感染細胞のオートファジーによる細胞内殺菌を減弱させることを明らかにした。本年度は、細菌が産生する硫化水素がオートファジーによる細胞内殺菌に与える影響について検討した。サルモネラの主要な硫化水素産生系であるチオ硫酸還元酵素をノックアウトした株を作成した。野生型サルモネラとチオ硫酸還元酵素ノックアウト株をそれぞれマウスマクロファージに感染させたところ、野生型に比べてチオ硫酸還元酵素ノックアウト株はより著明にオートファジーを誘導した。感染後の細胞内の生菌数を調べたところ、野生型に比べてチオ硫酸還元酵素ノックアウトサルモネラは、感染6時間後の細胞内生菌数が有意に低下していた。これらのことから、細菌が産生する硫化水素はオートファジー誘導を抑制することにより感染細胞内での細菌の生存・増殖に寄与していることが示唆された。これは細菌が産生する硫化水素の新しい生理機能として注目すべき知見と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、当初計画をしていた硫化水素産生酵素をノックアウトしたサルモネラの作製に成功するとともに、これらのノックアウト株を用いたオートファジーおよび細胞内殺菌の解析を行うことができた。研究目的である硫化水素関連物質によるオートファジー制御機構の解明とその生理的意義についてほぼ計画どおりの成果が得られており、目的達成に向けておおむね順調に研究が進展していると考えている。
2年間の研究により本課題の目的である硫化水素関連物質によるオートファジーの制御機構と感染防御における役割の解明がほぼ達成できつつある。今後は、CBSおよびCSEによるオートファジー制御の分子的メカニズムについて、さらに詳細な解析を進め、当研究課題をまとめるとともに、学術論文として発表することを目指す。また、このような硫化水素関連物質とオートファジーが関わる他の生理現象についても探索を行い、生理的意義についてさらに詳しい検討を続けてゆく予定である。
本年度は、実験に使用する試薬、消耗品などの物品費が当初の予定よりも少ない額で目的を達成することができたため。硫化水素によるオートファジー誘導メカニズムのさらに詳細な解析のための実験に関する試薬、消耗品などの物品費に使用する。また、研究成果を論文にまとめ投稿するための英文校正、論文投稿費用として使用する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (9件) 備考 (1件)
臨床と微生物
巻: 41 ページ: 21-25
Antioxidants & Redox Signaling
巻: 20 ページ: 295-307
doi: 10.1089/ars.2012.4606.
Chembiochem
巻: 14 ページ: 1068-1071
doi: 10.1002/cbic.201300129.
Molecular Cell
巻: 52 ページ: 794-804
doi: 10.1016/j.molcel.2013.10.024.
Nitric Oxide
巻: 34 ページ: 10-18
doi: 10.1016/j.niox.2013.04.004.
巻: 19 ページ: 1236-1246
doi: 10.1089/ars.2012.5067.
精神科救急
巻: 16 ページ: 69-72
医学のあゆみ
巻: 247 ページ: 781-785
http://www.toxicosci.med.tohoku.ac.jp