研究課題/領域番号 |
24590530
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
横田 伸一 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (10325863)
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研究分担者 |
山本 聡 札幌医科大学, 医学部, 助教 (10588479)
藤井 暢弘 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90133719)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 感染免疫 / ヘリコバクター・ピロリ / リポ多糖 / 炎症 / 発癌 / エピトープ / Toll-like receptor |
研究概要 |
ピロリ菌リポ多糖(LPS)に存在する二種のエピトープの性状を解析する目的で、LPSとヒト血清の結合に対する種々の単糖および単糖のメチルグリコシドを競合物質として影響を検討した。その結果、高抗原性エピトープにはN-アセチル-β-グルコサミン残基が、低抗原性エピトープ保有にはβ-ガラクトース残基が重要であることが示唆された、高抗原性LPSを肺炎球菌由来のN-アセチル-β-グルコサミニダーゼ消化させると高抗原性エピトープ特異的な血清の反応性が有意に減少し、低抗原性エピトープ特異的な血清の反応が上昇した。低抗原性LPSをAspergillus由来のβ-ガラクトサミニダーゼ処理すると低抗原性エピトープ特異的血清の反応性が低下した。 ピロリ菌LPSとヒトサーファクタント蛋白質A(SP-A)およびD(SP-D)との相互作用を固層化LPSを用いた酵素免疫測定法で検討した。低抗原性エピトープ保有LPSがSP-Dに対して高抗原性エピトープ保有LPS,O-多糖欠損ラフ型LPSよりも有意に高い結合性を示した。低抗原性LPSに対するSP-Dの結合はメチル-β-ガラクトピラノシドおよびCa2+のキレート剤であるEGTAによって阻害された。SP-Dのcarbohydrate-recognition domain (CRD) を介してCa2+依存的に、低抗原性エピトープを含む構造を認識していることが示唆された。 胃癌由来細胞株MKN28, MKN45をピロリ菌LPSで処理することによって、細胞のToll-like receptor 4の発現増強と細胞増殖速度の亢進が認められ、これら二つの活性は低抗原性LPSの方が高い。低抗原性LPSにSP-D精製組換えタンパク質を共存させるとTLR4の発現増強、細胞増殖速度の亢進のいずれもが有意に増強された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果では、当初の計画をほぼ満たすことができた。 ピロリ菌LPSの高抗原性エピトープにはβ結合のN-アセチルグルコサミン残基が、低抗原性エピトープにはβ結合のガラクトース残基が関与していることが示唆された。低抗原性エピトープ形成にかかわるβ-ガラクトース残基には宿主のSP-DがCRDを介して特異的に結合し、低抗原性LPSが強く持っている胃癌由来上皮細胞株に対するTLR4発現増強と細胞増殖亢進の作用をさらに増強することが示唆された。 主要な知見のひとつは高抗原性エピトープと低抗原性エピトープに関与する糖残基に関する知見が得られたことである。特に高抗原性エピトープの決定基であると示唆されたN-アセチル-β-グルコサミン残基について酵素的に除去することが可能であり、除去によって低抗原性エピトープが露出したという結果から一菌株内での高抗原性から低抗原性への変換機構の解明に目処がついた。 ふたつ目の知見は低抗原性エピトープ保有LPSの生物活性が高い原因について、宿主の生体防御に関与するレクチンであるサーファクタントタンパク質D(SP-D)の関与が示唆されたことである。ピロリ菌の炎症惹起および発癌機構のひとつにLPSとSP-Dとの相互作用が重要となる可能性が示唆された。 以上に述べたとおり、2種のエピトープの構造の同定と生物活性に差が生じるメカニズムの解明という本研究の目的について大まかな道筋を本年度中に立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果から、高抗原性エピトープにN-アセチル-β-グルコサミン残基の関与が明らかとなり、この残基を酵素的に除去することによって低抗原性エピトープが露出することが示唆された。この結果から、高抗原性と低抗原性は一糖残基の有無によって決定しうるという作業仮説を立てた。高抗原性から低抗原性への変化は、当該糖残基の生合成経路が重要であると考えられ、ピロリ菌における糖の転移酵素,分解酵素などの生合成酵素の同定,発現量の解析,遺伝子配列変化の有無について検討する。具体的な方策としては、すでに全ゲノム配列が公開されている菌株の配列データから、N-アセチル-β-グルコサミンの 転移酵素,分解酵素と考えられる遺伝子を抽出する。高抗原性エピトープ保有株、低抗原性エピトープ保有株各10株程度について当該遺伝子の有無や配列の比較を行い、遺伝子レベルで当該エピトープ形成に関与するものを探索する。一方で、遺伝子のうち典型的な配列を有するものについて、大腸菌で組換えタンパク質を作製し、ピロリ菌LPSをアクセプターとしてヒト血清の反応性変化を指標に当該エピトープ形成にかかわる酵素の同定を活性の面からも並行して実施する。 本研究で用いている菌株について、multilocus sequence typing (MLST), cagAおよびvacA typingなどを実施し、2種の菌株間で遺伝子系統的な偏りかあるか否かについても検討する。 実際のヒト感染の場における低抗原性LPSの役割を検討するため、胃癌患者由来のバイオプシー標本を入手し、癌部と非癌部におけるToll-like receptor 4,SP-D,低抗原性エピトープ保有LPSの存在および発現量を組織切片の抗体染色もしくはWestern blottingにより検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の交付予算については、すべて試薬,器材等の消耗品費に当てる。 N-アセチル-グルコサミン残基が関与した高抗原性エピトープ形成にかかわる酵素遺伝子の同定を試みるために、PCRによる遺伝子クローニング、遺伝子配列解析、MLST typing等の遺伝子解析を多数の菌株に対して実施するために、PCR用の酵素反応溶液、配列解析用の反応溶液等遺伝子解析用試薬を相当量使用する。さらに、糖転移(分解)酵素の候補遺伝子の組換え体の作製に培地,蛋白精製クロマトグラフィー用の樹脂等が必要となる。 組織切片を調製するための費用、組織染色用の一次抗体,二次抗体の購入費用が必要となる。 LPS精製標品の調製のため、菌の培地、精製用の生化学試薬等が必要となる。
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