研究概要 |
胃癌由来ピロリ菌株のリポ多糖とそれ以外の疾患由来ピロリ菌のリポ多糖の抗原性の差異の病原性とのかかわりについて検討している。これまでに胃癌由来株リポ多糖では低抗原性エピトープが頻度高く存在し、ガラクトース(Gal)残基の関与を示している。それ以外の疾患由来株リポ多糖では高抗原性エピトープの保有率が高く、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基が重要であることを示している。 本年度は、海外の一部の菌株で認められているグルカン鎖の有無について検討した。抗グルカンモノクローナル抗体を共同研究先であるカナダのDr. Altmanから分与を受け、リポ多糖との反応性を検討したところ、日本由来の12株の中で有意な反応性を示すものは認められず、グルカン鎖とヒトにおける抗原性に関連性はないものと結論した。また、グルカン鎖は日本株には認められない表現型である可能性も示唆された。 高抗原性エピトープ保有株と低抗原性エピトープ保有株のゲノム比較を行う予備検討として、multilocus sequence typing (MLST) で用いられる8つのhouse keeping genes (atpA, efp, mutY, ppa, trpC, ureI, yphC, vacA) の部分DNA配列を決定し、系統樹解析を実施した。その結果、遺伝子クラスターと抗原性との間に相関性は認められなかった。 現在、ヒト血清をその分類に用いている高抗原性と低抗原性のエピトープを簡便に再現性良く区別するため、モノクローナル抗体の作成を試みている。ピロリ菌感染者の末梢血を得ることが困難であるため、マウスに菌体を免疫して得られた抗ピロリ菌リポ多糖モノクローナル抗体6クローンについて反応特性を調べているが、糖鎖上のルイス抗原を認識すると考えられる抗体であり、目的とするエピトープに対する抗体は今のところ得られいない。
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