本研究では、これまでに共にアミノ酸相同性を示すサルモネラ属細菌のIII型エフェクターSseK1、SseK2およびSseK3が宿主のnuclear factor-kappa B (NF-κB)活性化を制御することを明らかにした。これらのタンパク質は感染局所での炎症を制御し、菌の全身拡散を誘導する自然免疫回避エフェクターとして機能することが予想される。本年度はこれらタンパク質がどのようにNF-κB活性化を制御するかを明らかにするために、相互作用する宿主タンパク質を同定することを試みた。さらに腸炎モデルマウスを用いた感染実験によりNF-κB活性化制御が個体に与える影響をin vivoにおいて解析した。 SseK1、SseK2およびSseK3は腸管病原性大腸菌のIII型エフェクターNleBとアミノ酸相同性を示す。NleBはN-acetylglucosamine transferase(N-AGT)活性をもち、GAPDHやDeath DomainファミリーであるFADDおよびTRADDと結合することが報告されている。そこで、SseK1、SseK2およびSseK3がN-AGT酵素活性をもつか否か、またGAPDHやFADDと結合するか否かを調べた。しかしながら、NleB、SseK1、SseK2およびSseK3共にN-AGT酵素活性が見られず、またGAPDHまたはDDファミリータンパク質との結合性を明らかにすることができなかった。 一方、SseK1、SseK2またはSseK3がin vivoで自然免疫回避エフェクターとして機能するか否かを明らかにするため、これらIII型エフェクターをコードする遺伝子の欠失株、または全て欠失した三重変異株を腸炎モデルマウスに感染させ、盲腸の炎症の程度を野生株感染マウスと比較した。その結果、野生株、単独欠失変異株、または三重欠失変異株感染マウスともに、盲腸の炎症は同程度であった。このことから、サルモネラ属細菌において未知NF-κB制御タンパク質の存在が予想され、今後、全てのNF-κB制御タンパク質を同定したうえで、それらを包括的に機能解析することが必要である。
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