サーチュイン(Sirtuin)は代謝、老化、ストレス応答などに関与する抗老化因子として知られる脱アセチル化酵素であり、ヒストンを脱アセチル化してクロマチンの安定性を保ち、細胞を老化から保護する働きがある。近年、サーチュインが炎症・自然免疫に重要な転写因子NF-κBの活性化を抑制し、炎症性疾患へ関与することが示唆された。本研究では、サーチュインによる炎症応答の抑制機構が新たな敗血症制御のターゲットとなるかを検討することにした。LPS刺激RAW264.7細胞に対して、pan-sirtuin活性化剤であるresveratrol添加しTNF-αを測定したところ、その産生がreveratrolによって抑制された。また、sirtuinのうち、sirt1に対してより選択的な活性化剤であるSRT2104により、TNF-α、IL-6の産生が抑制された。さらに、NF-κBの発現と核内移行、NF-κB p65の310番目のリシン残基のアセチル化をwestern blotで確認すると、発現量、核内移行はLPS単独の場合とSRT2104添加で変化していなかったが、K310のアセチル化が低下していた。BALB/cマウスを用いて盲腸結紮穿孔(CLP)モデルを作成し、SRT2104およびsirt1選択的阻害剤であるEx-527を腹腔内投与し、24h、48h後の生存率とサイトカインを測定した。SRT2104はCLPモデルマウスの48時間後生存率を改善したが、CLP後の血中サイトカインの上昇はSRT2104によって抑制されなかった。NF-κB p65のアセチル化は活性を正に調節することから、sirt1はin vitroの実験では炎症応答に際してNF-κBの活性を抑制し、サイトカイン産生を抑制する可能性が示唆されたが、CLPモデルにおいては炎症性サイトカインを抑制せず、何らかの異なる作用を介して生存率を改善することが推測される。
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