研究概要 |
SIに近縁の菌種としてS. anginosus group (SAG)にはS. anginosus (SA), S. constellatus (SC)が存在し、histone-like protein (HLP)などの病原因子候補の配列も近い。PBC患者5名、健常者22名、他の自己免疫疾患として、自己免疫性膵炎 (AIP) 11例、他の自己免疫疾患4例の計42名の歯周ポケットサンプルからSAG 56株 (SA 22, SC 18, SI 16株)を得た。PBC患者は5名中5名全てSAGのいずれかの菌種、1人平均2.6株を同時に持っていた。一方で、AIPでは0.9株、健常者で1.1株とPBCは複数の菌株を同時に保有する傾向が強かった。同時に複数のSAGが存在することがPBC発症や進展にどのように影響するのかは今後の検討課題である。一方、得られたSC, SIのHLPのアミノ酸配列は100%一致しており、molecular mimicの対象はSIのみならずSCも関与していることが示唆された。得られたSAG各菌種の遺伝的背景を比較すると、SAは非常に多様性に富んでいる一方、SIは比較的均一なクラスターを形成した。SCは少なくとも遺伝的に4つのクラスター、1つは未知のsubspeciesに分類された。各SAGのgroEL, gyrB, rpoB, ddl, dnaJの全塩基配列比較を行うと、SAではSC, SI由来の断片とのモザイク構造を示すrpoB, groELが多数存在しており、水平伝播によるhousekeeping geneの組み替えが少なくともSI, SC→SAでは頻繁に起こっていることが示唆された。SAGの中でもSAはニッチな環境に棲息するSI, SCと異なりその分布領域が広いが、SAは積極的に他のSAGの遺伝子を取り込むことで、多様な環境に適応していると推察された。
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今後の研究の推進方策 |
現在、次世代シーケンサーによる多様なSAG各菌株のdraft genome sequenceを解読しており、SAGにおける遺伝子の水平伝播パターンにどのような規則性、方向性があるのか、菌株の存在部位(由来)との比較から、進化の引き金になる法則性を検索している。PBCの病因に関しては、その進行にかかわるgp210との免疫交差反応が証明されているHLPの配列がSC, SIで共通であることを考えても、単一の要因で説明するのは難しい。ILY, Neuraminidaseなど他の病原因子との絡みがあるので、遺伝子の水平伝播を起こしやすいSA株をhostとしたHLP (SI, SC起源), ILYなどの導入、組み換え株を作成して、PBC model実験を実施する予定である。
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