研究実績の概要 |
原発性胆汁性肝硬変 (PBC) は主に中年以降の女性に発症する肝臓の小胆管周囲の慢性非可能性炎症を主体とする原因不明の自己免疫疾患である。我々はこれまでにPBCのmolecular mimicとなる微生物として、S. anginosus group (SAG) の中のStreptococcus intermedius (SI) の関与を明らかにしてきた。以前、報告しているようにSAGの中で、house-keeping geneであるrpoB, 16S rDNA, groELなどには種々のchimeraが存在しており、SAGの中で頻繁に遺伝子の組み替えが起こっており、多様な環境に対応するSAG各菌種の能力の一因となっていると考えられた。そこで、本年度はSAGのうち、未解明だったS. anginosus, S. constellatus標準株の全ゲノム配列を決定し、アノテーションを実施した。そのデータを元にSAGの遺伝子組み換えに重要な役割を果たす、competence factor operon, comCDEについて、SAG 234株について解析した。SAGには6タイプのcompetence stimulating peptide が存在し (CSP1-1, 1-2, 1-3, 2-1, 2-2, 2-3と命名)、CSP1-1がSC, SAでは70%程度、SIでは95%がこれを占めていた。これらの株間では種を越えてtransformationが起こっていた。一方、SAではCSP2-1が、SCではCSP2-3が残りの多くを占めており、これらはそれぞれの菌種内での系統維持に関わっていると考えられた。217株 (92.7%)のcomCDEはインタクトであったが、残りの株はindel, frameshiftなどにより機能しておらず、必ずしもcomCDEは生存に必須のシステムではなかった。これらのことより、SAGのうち、SA, SCの環境への多様性が裏付けられると同時に、SIがほぼ単一のcompetence systemを維持している事は、ニッチな環境に特化したSIの進化過程を裏付けていると思われた。
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