原発性胆汁性肝硬変 (PBC)は主に中年以降の女性に発症する肝臓の葉間胆管周囲の慢性非化膿性炎症を主体とする原因不明の自己免疫疾患で、進行すると肝硬変に至り、肝移植しか治療手段がない難病である。我々はPBC患者の病状進展に深く関わる自己抗原 (gp210) のmolecular mimicとして、Streptococcus intermedius (SI) のhistone-like protein (HLP) が強く疑われることを示してきた。SIをマウスに投与するとPBC同様の病変が再現できるモデルを確立し、病巣部にHLPが集積することも確認できた。また、このPBCモデルマウスの脾細胞を別のRAG2-/-マウスに移植すると、同じ病態が再現されることも報告してきた。SIは嫌気要求性が高く、健常者の常在菌叢での分布は歯周ポケット(歯周病病巣)など、ニッチな環境に限られている。本研究でPBC患者、他の自己免疫疾患患者、健常者の3群の歯周病部位から分離された株と深部膿瘍等の感染病巣から分離された株で違いがあるかどうか、検討した。由来による遺伝的背景、保有する病原因子・定着因子の差は認められず、PBCに特有のクローンは証明出来なかった。一方、各患者背景別の菌株のin vitroにおけるHLP産生量をindeireect ELISA法で測定すると、深部膿瘍等の感染症病巣由来株の産生は有意に低く、過半数の株では産生が認められなかった。一方、PBC患者由来株では明らかに他の株よりもHLP産生量が高く、局所でのHLP産生性の違いがPBC発症・進展に寄与している可能性が示された。本研究で得られた結果から、PBC患者の歯周病治療により、PBC病態進行をコントロールできることが期待された。
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