研究課題
基盤研究(C)
本研究では、乳酸菌が持つ自然免疫活性化物質として、グリセロ糖脂質(GGL)及びペプチドグリカン(PG)に焦点を当てる。平成24年度は主に、これらの乳酸菌・菌体成分を効率よく抽出、精製する方法について検討した。代表的な乳酸菌としてLactobacillus brevisを用い、この菌のGGLを抽出した後、DEAE-セルロースカラムクロマトグラフィーにかけ、非吸着画分を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけて、精製画分を調製した。この精製脂質を機器分析したところ、すでにNKT細胞活性化能が報告されている肺炎球菌のGGLとほぼ同じ化学組成と構造を有していることが確認された。ただし、肺炎球菌のGGLと比べ、脂肪酸として11,12-メチレン-オクタデカン酸(ラクトバシル酸)を含むことが特徴的であった。L. brevisのPGを常法であるSDS処理、TCA処理で調製した。この粗精製PGは不溶性であるため、さらにリゾチームで37度、1時間処理し、可溶性となった画分をフェノール・クロロホルム抽出して、水相に部分分解・可溶化PGを得た。この精製PGに含まれるアミノ酸をGC-MSにより分析したところ、PGを構成する4種類のアミノ酸以外のアミノ酸はほとんど検出されなかった。従って、リゾチームによりグリカン鎖は分解されているものの、この方法により高純度の可溶性PGが得られることが確認された。PGの自然免疫活性化能の指標として、ヒト単球由来のTHP細胞を使用してIL-8産生能をELISA法で調べたところ、精製L. brevis PGは、市販のEnterococcus faecalis PG、あるいは粗精製L.brevis PG(いずれも不溶性)と比べて、ほぼ同等の活性を有しており、なお且つ、より明瞭な濃度依存性の活性を示すことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度に予定していた研究のうち、L. brevisのグリセロ糖脂質については、カラムクロマトグラフィーを組み合わせることにより、精製法をほぼ確立することができた。また、同菌のペプチドグリカンをリゾチームを使用して可溶化することにより、精製度の高いペプチドグリカンを得ることができた。さらに、THP細胞を使用して、IL-8産生能を測定する系を確立して、可溶化ペプチドグリカンの活性を確認することができた。従って、概ね当初の予定通り、研究が進行していると考えている。
今後、グリセロ糖脂質については、L. brevis以外の乳酸菌、特に乳酸球菌について、これまで研究されていない糖脂質を抽出、精製し、その構造を分析し明らかにする。そして、これらの糖脂質のNKT細胞活性化能を、SphingomonasのGSLなどの既知の糖脂質と比較する。ペプチドグリカンに関しては、可溶化の条件をさらに詳細に検討するとともに、可溶化後に弱アルカリ分解処理を加えることにより、リポタンパク質などの混入の可能性を排除して免疫活性を測定する。これにより得られるデータを、既存のペプチドグリカンのデータと比較検討する。これらの研究により、乳酸菌の糖脂質とペプチドグリカンが自然免疫活性化に果たす役割について明らかにしていく。また、得られるデータを学会及び学術雑誌に発表する。
該当なし
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Eur. J. Immunol.
巻: 43 ページ: 815-825
10.1002/eji