本研究では、乳酸菌が示す穏やかな免疫活性化能と菌体成分の関係を明らかにすることを目的として研究を行った。最終年度である平成26年度はEnterococcus faeciumのグリセロ糖脂質(GGL)の構造解析と、乳酸菌ペプチドグリカン(PG)の免疫活性に重点を置き研究を進めた。E. faeciumは2種類のGGLを有するが、このうち陰イオン交換樹脂に非吸着の脂質について1H-NMR分析を行い、糖鎖部分はα-D-Glc-(1-2)-α-D-Glcであることを明らかにした。このGGLは、Lactobacillus brevis GGLと共通構造を有しているので、α-D-Glcが脂質部分に結合した構造は乳酸菌GGLに広く分布していると推定された。一方陰イオン交換樹脂吸着脂質については、糖鎖部分が上記の脂質と同一の1H-NMRスペクトルを与えることがわかったが、全体の構造を決定するには至らず今後の課題として残された。 L. brevisとE. faeciumから粗PG、リゾチーム可溶化PG、及びリゾチーム可溶化・アルカリ処理PGを調製した。アミノ酸分析により、可溶化やアルカリ処理によりグリカン鎖部分が切断されアミノ酸同士の架橋で繋がった「部分分解精製PG」が得られていることがわかった。これらについてIL-8産生活性を調べたところ、リゾチーム可溶化・アルカリ処理PGが強いIL-8産生活性を示した。今後、レセプターについても研究を進展させたいと考えている。 GGLが示すNKT細胞活性化能については、L. brevisのGGLについてマウス培養細胞を使用して調べた。その結果、予想に反して、対照として用いた細菌由来スフィンゴ糖脂質と比較すると活性が微弱であった。従って、乳酸菌が示す免疫活性化能においてGGLの果たす役割は小さく、活性の大部分はPGによって賄われているのではないかと推定された。
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