研究課題/領域番号 |
24590540
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
中山 浩伸 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 准教授 (40369989)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 微生物 / 感染症 / 発現制御 / 脂質 / シグナル伝達 |
研究概要 |
抗真菌薬の多くはステロール合成阻害剤であるが、病原真菌の中には宿主からステロールを取り込んで生育に利用するものがあり、ステロールの取り込みが真菌の感染成立や薬剤耐性獲得と関わりが深い。本研究は、日和見真菌カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)を用い、真菌のステロールの取り込み機構の全容と生理的意義を明らかにすることを目的とする。平成24年度においては、好気条件下でのステロール取り込みのスイッチとなる因子(要因)の同定と取り込みの本体であるステロールトランスポータAUS1の感染成立における重要性の確認を試みた。好気条件下でのステロールの取り込みは、単にステロールの添加だけでは起こらず、ステロールにlipoprotein deficient serumを加えることで起こることを明らかにした。すなわち、血清中のステロール以外の成分が、好気条件下でのステロール取り込みのスイッチとなっていることを示した(J Infect Chemother 19:138-43)。次に、AUS1の発現が、鉄キレーターの添加(生体成分ではトランスフェリン等)によって鉄欠乏状態になることで上昇し、好気条件でのステロール取り込みを引き起こすことを明らかにした。また、マウス感染モデルの実験から、aus1欠損株では、腎臓における生菌数が野生株で有為に低下していることを明らかにし、AUS1が真菌の感染成立に寄与していることを確認した(Mol Microbiol 88:371-81)。さらに、HA-tagをもつTIR3 株を作成し、ウエスタン解析により、AUS1の機能発現に必要であるマンノプロテインTIR3の局在が、細胞膜に局在するAUS1とは異なり、細胞壁であることを明らかにした(第86回日本細菌学会総会)。これらの結果は、ステロールの取り込み機構の詳細な解明に大きく貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画では、1)TIR3とAUS1の局在の関連、2)AUS1の転写調節領域の配列の同定、3)血清添加ストレスからAUS1の発現にいたるシグナル伝達経路に関わる因子の同定、4)マウスおよびカイコの感染実験を用いたUPC2A、UPC2B、および、TIR3の宿主感染における重要度の確認の4つを計画した。 このうち、1)については、ほぼ目標を達することができ、TIR3の局在が、細胞膜に局在するAUS1とは異なり細胞壁であること、tir3欠損株でもAUS1の局在に変化がないことを明らかにした。2)については、100bp単位で欠損させたレポータ(ルシフェラーゼ)ライブラリーを用いることで、転写活性化領域が-900 bp付近にあることを同定し、目標をある程度クリアした。3)については、UPC2AおよびUPC2Bの片方または両方の遺伝子破壊株について、鉄欠乏ストレスの有無で培養した細胞からRNAサンプルを用意し、DNAマイクロアレイ解析を行った。現在、UPC2AおよびUPC2Bの上流および下流の候補因子を推定中である。計画では、いくつか候補遺伝子を挙げ、候補遺伝子の欠損株と復帰株におけるAUS1遺伝子の発現を定量RT-PCRを用いて測定し、血清添加ストレスにおけるシグナル伝達経路への該当因子の関与を確認する予定であったがこの部分が未着手である。4)については、tir3欠損株を用いて、カイコの感染実験を行ったが、マウス感染モデルを用いた実験や他の遺伝子についての検討(upc2A、upc2Bの変異株を用いた感染実験)は未着手であるため、この項目が一番遅れている。 以上をまとめ、本研究課題全般として、進行がやや遅れていると認識している。
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今後の研究の推進方策 |
1)AUS1の機能発現までのシグナル伝達経路に関わる因子の同定、2)UPC2AおよびUPC2Bの細胞内局在、3)AUS1の発現調節領域に結合するタンパクの同定、4)マウスおよびカイコの感染実験を用いたステロール取り込み関連因子の宿主感染における重要度の確認、を下記のように進め、ステロールの取り込み機構の全容と生理的意義の解明につなげる。 1)については、24年度のDNAマイクロアレイ解析の結果をもとに候補遺伝子を選択し、欠損株と復帰株を用いて、血清添加ストレス、または、鉄欠乏ストレスの有無で培養した細胞からRNAサンプルを用意し、DNAマイクロアレイ解析を行うことから、シグナル伝達経路の確認を行う。これらの実験により、UPC2AおよびUPC2の活性化経路やUPC2AとUPC2Bとの関連を明らかにする。2)については、UPC2AおよびUPC2Bに蛍光タンパクやライブイメージング用のタグ(SNAP-tagなど)を融合させた株を作製し、種々の条件で培養し、蛍光顕微鏡下、細胞内の局在と核移行を調べる。3)については、血清添加培地または、鉄キレーター添加培地で培養した野生株の抽出物と同定した転写活性化領域のDNAを用いて、ゲルシフトアッセイを行い、シフトしたバンドからタンパク抽出して質量分析を行うことから同定する。さらに、必要に応じてライブイメージング用のタグを挿入して局在を調べたり、相互作用する因子をアフィニティ精製-質量分析の手法を用いて同定したりする。4)については、UPC2A、UPC2B、TIR3、さらには、1)で新たに同定した因子の病原性への関与の有無について、カイコおよびマウスの感染実験を用いて調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、変異株等の作製時に行う遺伝子操作実験やAUS1の発現にいたるシグナル伝達経路に関わる因子の選定のために行うDNAマイクロアレイ解析、細胞内局在を調べる生化学的解析などに必要な試薬類および消耗品を購入する。また、感染実験に使用するカイコ(200 匹)、マウス(Balb/c:100頭)も物品費として購入する計画である。これらを合わせての使用額を1,000,000円と計画した。また、国内外の学会発表、研究会や研究打ち合わせに必要な旅費、宿泊費、日当を“国内旅費”およびに“外国旅費”として500,000円を使用する計画である。その他、論文を投稿するための研究成果投稿料と論文別冊作製に必要な経費として100,000円を使用する計画である。
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