研究課題
昨年度までの解析により,ウエルシュ菌α毒素は,細胞膜上のガングリオシドGM1aとチロシンキナーゼ関連受容体(TrkA)との複合体に結合すること世界で初めて明らかにし,J Biol Chemに報告した.今年度は,α毒素による細胞膜リン脂質の変化がTrkAの活性化に重要な働きを演じているのではないかと仮説を立て,種々の蛍光色素,及び共焦点レーザー顕微鏡を用いて検討した.その結果,α毒素は,細胞膜上のGM1aに結合後,毒素自身が保有するホスホリパーゼC活性,及びTrkAの下流に存在する内因性ホスホリパーゼCγ-1の活性化により,ホスファチジルコリンがジアシルグリセロールへ分解され,このリン脂質の挙動変化によりTrkAのクラスター化が著しく亢進されていることが明らかとなった.TrkAのリガンドである神経成長因子では,このようなリン脂質代謝が認められないことから,α毒素の毒素たる所以は,リン脂質代謝によるシグナルの撹乱であると推察された.また,今年度は,α毒素が有するガングリオシド結合モチーフ(H___SWY___G)のどの部位とGM1aが結合しているかを解析するため,モチーフ内の8個のアミノ酸をそれぞれアラニンに置換した8種類の変異毒素を作成し,GM1a含有リポソームへの結合実験をBIACORE3000で解析した.その結果,α毒素の84位トリプトファン残基と85位チロシン残基がGM1aとの相互作用に重要であることが判明した.
1: 当初の計画以上に進展している
α毒素は,細胞内ホスホリパーゼC活性を亢進し,様々な毒性(溶血,活性酸素産生,サイトカインやケモカイン酸性)を発現していると報告してきた.しかしながら,その活性化メカニズム,及びそのアイソタイプの種類に関しては,未解明のままであった.本年度の解析により,α毒素は,細胞膜上のGM1aに結合後,毒素自身が保有するホスホリパーゼC活性により細胞膜リン脂質組成を変化させることにより,GM1aに隣接するTrkAのリン酸化を惹起していること,さらに,TrkAのアダプタータンパク質として存在している内因性ホスホリパーゼCγ-1が特異的に活性化していることを見出した.約四半世紀の間明らかにされていなかったα毒素の受容体の発見、及び毒素によって活性化される内因性ホスホリパーゼCの種類を同定できていることから,本申請課題は,順調に遂行していると考える.
研究計画は,ほぼすべて順調に遂行し,完了目前であるが,「α毒素とシアル酸,及びGM1aの糖鎖部位との複合体結晶構造解析」に関しては,未だ結晶すら得られていない状況である.次年度は,ボツリヌス神経毒素と糖との複合体解析を参考にして解析する予定である.次年度は,本年度得られた研究結果をまとめ、原著論文、及び総説を投稿する予定である.
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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