IEEは腸管出血性大腸菌(EHEC)においてISの切り出しおよびISを介したゲノムの多様化に関与する因子であり、その生物学的な機能や活性の種類の解明に向けて、以下のような解析を行った。 1. 昨年度までのDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析により、EHEC O157のiee遺伝子欠失株においてIEEを過剰発現させると、DNA複製に関与する一本鎖DNA結合タンパク質(ssb)やdinI、recN、recAなどDNAダメージ応答に関与する遺伝子の発現が増加した。そこで、リアルタイムRT-PCRを用いてこれらの遺伝子の発現を詳細に解析したが、IEEによる顕著な遺伝子発現の誘導は観察できなかった。 2. 昨年度の検討により、毒素原生大腸菌(ETEC)の一部が系統特異的にiee遺伝子を保有し、本遺伝子周辺の構造はEHECが保有する約90 kbのintegrative element SpLE1と極めて類似していることが明らかになった。また、多くのプロファージはintegrase(int)遺伝子の下流にexcisionase(xis)遺伝子を持ち、excisionaseがプロファージの切り出しに関与するが、本SpLE1様エレメントではint遺伝子の下流に(xis遺伝子とは長さも配列も大きく異なる)iee遺伝子が存在していた。そこで、SpLE1の両末端に分断したアンピシリン(Ap)耐性遺伝子を挿入したO157変異株を作製し、SpLE1の切り出し頻度を測定した。すなわち、本変異株においてSpLE1の切り出しが起こると、分断したAp耐性遺伝子が野生型に戻り菌がAp耐性に変化するため、Ap耐性菌の出現率がSpLE1の切り出し頻度となる。その結果、SpLE1 integraseおよびIEEの共発現により、SpLE1の切り出し頻度が大きく上昇した。 以上の検討により、iee遺伝子を含むintegrative element SpLE1は可動性であり、IEEはDNAに対する作用機序が異なるIS転移酵素およびSpLE1 integraseのそれぞれと協働することで、ISおよびSpLE1両方の切り出しに関与することが明らかになった(論文投稿準備中)。
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