本年度の研究においては、ラット由来HTLV-I Tax180-188エピトープ特異的CD8陽性CTL細胞株(4O1/C8細胞)が発現するT細胞受容体(TCR)α鎖およびβ鎖の全長遺伝子をP2A配列、あるいはリンカー配列で結合し、ピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを用いてラットT細胞株に導入したところ、前年度までの研究で確認できなかったTCRのTaxエピトープに対する特異性を確認することができた。一方で、本TCR遺伝子導入CTL によるHTLV-I感染細胞に対する細胞障害活性は確認できず、TCR複合体とMHC-I/ペプチド複合体との親和性とTCR発現効率の更なる向上を目指した改良の必要性が示唆された。 また、ラットにおいてHTLV-I感染T細胞と4O1/C8細胞との混合培養細胞の投与により、高率に下肢の麻痺が起こるモデル系を樹立した。HTLV-I感染T細胞を単独で投与した場合には、全身的なHTLV-I腫瘍の増殖が確認できるものの、下肢麻痺を発症する個体は皆無であったことから、HTLV-I感染T細胞とTax特異的CTLの共存が発症に関与する可能性が示唆された。一方で、下肢麻痺発症個体の脊髄にはCTLではなく、HTLV-I感染細胞が浸潤していることが示されたことから、CTLの発症への役割に関してはさらなる解析が必要であると考えられた。本モデル系は多様な病態を呈するHTLV-I関連疾患の発症機序の解析に有用であるともに、前年度までの研究で樹立したTax180-188提示型MHC-I単鎖三量体発現ワクシニアウイルスベクターとCTLとの併用による発症予防効果の検証への応用の可能性も期待される。
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