インフルエンザウイルスの薬剤耐性に対処するために、作用機序の異なる複数の薬剤を備えておくことは、極めて重要である。本研究では、ポリメラーゼのエンドヌクレアーゼ活性を標的として、治療薬候補化合物の開発を進めた。研究当初より、先導化合物が得られていたので、類似化合物を合成し、この中から先導化合物より高い阻害活性を持つ新規の化合物の探索を行った。 本研究では、理論計算・有機合成・生化学実験を融合させ、阻害剤の開発を進めた。具体的には、化合物と標的タンパク質との相互作用を計算機で解析して薬物の分子設計を行った。算出された結合親和性を参考に、活性増加の見込める分子構造をデザインした。次に、計算機解析により有望と判断された化合物とその誘導体の有機合成を行った。有機合成によって得た化合物について、酵素阻害活性があるか否かを、生化学実験により測定した。 薬物設計において、活性化合物がどのように酵素活性部位に結合しているかを知ることは必要不可欠の情報である。そこで標的タンパク質と化合物との共結晶を作成して、X線結晶構造解析を行った。結晶化条件を最適化して、3種類の阻害活性化合物について、2.0Å程度の分解能でX線回折が得られ、結合構造を明らかにした。 3種類の化合物について、連携研究者により抗ウイルス活性が測定された。その結果、いずれもEC50値が10μM程度の活性を示すことが判った。今後、幾つかの合成化合物との共結晶構造解析を通じて、より阻害効果の高い薬物構造を設計して、薬物改変を進めていく予定である。
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