研究課題
基盤研究(C)
本研究では、H5N1インフルエンザウイルスが、ヒトで効率よく増殖・伝播することに関与する未知の変異を同定することが目的の1つである。その目的達成のために、様々なH5N1ウイルスの正常ヒト気管支細胞(NHBE)での増殖性を比較解析し、ヒトの細胞でよく増えることに関与する変異の同定を試みた。また、ヒト分離H5N1ウイルスをNHBE細胞で継代し、更にヒトの細胞に適応させ、よりよく増えるようになったウイルスで生じた変異について解析を行った。解析の結果、ウイルスのPB2タンパク質の627番目や591番目、701番目といった既知のアミノ酸変異を有さないにもかかわらずヒト気管支上皮細胞でよく増える株が存在することが分かった。 よく増える株には、特徴的なアミノ酸変異が複数見られ、特にウイルスRNAポリメラーゼ複合体を形成するPB2タンパク質などにおいて特徴的なアミノ酸変異が多く見られた。一方、正常ヒト気管支細胞で継代し、よく増えるようになったウイルスでは、異なるクレードに属する株(インドネシア分離株とベトナム分離株)において、共通した変異がHA遺伝子に起きており、ヒト細胞に適応することに重要なアミノ酸変異であると考えられる。また、鳥のウイルスには存在しないが、パンデミック2009(H1N1)ウイルスやブタのウイルスに多くみられる変異がPB2遺伝子で起きており、哺乳動物への適応に関与する変異であると考えられる。H5N1インフルエンザウイルスがヒトで効率よく増殖・伝播することに十分な変異は未だ不明であるが、本研究で、ヒトの細胞での効率のよい増殖に関与する新規の変異の存在が確認された。今後は、どのアミノ酸変異が重要であるかを特定し、パンデミックを引き起こしうるリスク因子の同定を目指す。
3: やや遅れている
正常ヒト呼吸器上皮細胞の増殖が安定せず、実験結果の再現性を取るのに予想より時間を要したため、研究の進展が研究計画より遅れてしまいました。今年度は、安定して培養できるテロメラーゼ導入正常ヒト呼吸器上皮細胞を使用する等の改善策にて、目的達成に向けて成果を挙げられるものと考えております。
平成24年度に見出した、既知の変異を有さないにもかかわらず正常ヒト呼吸器上皮細胞でよく増えるH5N1ウイルスについて、平成25年度はどのアミノ酸変異が重要であるのか特定し、マウスなどの動物実験モデルを用いて病原性の評価を行う。また、各変異の哺乳動物での増殖性に関与するメカニズムについて解析を進める。
引き続き、正常ヒト呼吸器上皮細胞やその細胞の培養に必要な培地等および遺伝子解析等に使用する試薬等に研究費を使用させていただき、さらに平成25年度は、病原性評価のための実験動物購入等に使用させていただく予定である。
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