研究課題
本研究は、H5N1インフルエンザウイルスが、どのような変異を獲得するとヒトで効率よく増殖・伝播するようになるのかを明らかにし、さらに、パンデミックを引き起こすウイルスが、ヒトに適応し季節性のインフルエンザウイルスとなっていく過程で、どのような変化が重要であるか解明することを目的とする。その目的達成のために、H5N1ウイルスが正常ヒト気管支細胞(NHBE)に適応する過程で生じた様々な変異について解析を行った。その結果、とりわけ、ヘマグルチニン(HA)の変異がNHBE細胞における効率のよい増殖性に寄与しており、更に、そのHAの変異の多くは、ウイルスの熱安定性やHAタンパク質の膜融合能に関与しうることを明らかにした。ヒト間での増殖・伝播には熱安定性や膜融合能の変化が重要であり、ヒトへの適応に関わる変化である可能性が考えられたため、フェレットを用いた伝播実験により伝播性を調べたが、フェレット間で空気伝播する株は認められなかった。一方、それらのNHBE細胞に馴化させた変異ウイルスは親株と比較して、肺胞上皮細胞における傷害活性は変わらないが、より上部気道である正常ヒト気管支細胞(NHBE)においては親株に比べよく増殖するにもかかわらず細胞傷害活性が低いという特徴を有していた。この現象は季節性のインフルエンザウイルスの主要な増殖部位である上部気道において、宿主細胞との相互作用における何かしらの変化が起きていると推測される。興味深いことに、2013年に中国でヒトから分離されたH7N9インフルエンザウイルスのHAにおいても同一の変異が報告されており、ヒトへの適応に関与する変異である可能性が強く示唆される。本研究で明らかにした変異ウイルスの性状は、ヒト以外の動物由来のウイルスがヒトで流行し、季節性のウイルスへと変化していく過程の一端を示している可能性が考えられ、今後は、更に、どのような変化が生じているのか詳細に解析を進めていく。
3: やや遅れている
平成25年度以降に実施予定として実験計画に記載した実験の中で、動物実験等の結果は得られているものの、マイクロアレイ等による遺伝子解析などには着手できていないため、やや遅れていると判断した。
平成26年度は、変異ウイルスと親株とが細胞に感染した時に、宿主応答にどのような違いがあるのか、また変異ウイルスは宿主細胞を制御するような変化を獲得しているのか等について、マイクロアレイ解析や宿主タンパク質とウイルスタンパク質との相互作用解析等を行うことで、より深くインフルエンザウイルスのヒト細胞への適応について理解を深める。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Journal of Virology
巻: 88 ページ: 3127-3134
10.1128/JVI.03155-13.
Nature
巻: 501 ページ: 551-555
10.1038/nature12392.
Euro Surveillance
巻: 18 ページ: 20453
Archives of Virology.
巻: 158 ページ: 1003-1011
10.1007/s00705-012-1577-3