本研究では、インフルエンザウイルスの子孫分節化RNAゲノム-タンパク質複合体(vRNP)のRab11依存的な極性輸送について、in situ Proximity Ligation Assay (PLA)により特定vRNP分節同士の近接を検証し、8分節vRNPの集合様式と超複合体が形成される輸送素過程の解明を目指した。研究期間全体の主な成果は「核酸プローブを用いたPLA系の構築」と「A型インフルエンザウイルス2株の分節化ゲノム相対配置の決定」である。最終年度は、分節集合が起きる極性輸送素過程の絞り込みを行った。子孫vRNP核外輸送または微小管輸送を阻害する薬剤を用い、特定2分節の近接頻度を計測した。核外輸送を阻害した場合は近接頻度が低く、微小管脱重合では薬剤非添加と同程度の値が得られたことから、分節集合は子孫vRNPの核外移行後に微小管輸送非依存的に起こると考えられる。次に「近接する2分節の立体的位置関係を把握」するため2本のPLAプローブによる近接評価を行ったが、プローブ毎の結合/検出特性によるバイアスが大きく有意な結論は得られなかった。代案として、分節Xの分節集合シグナルに変異を有する組換えウイルスを作成し、対応して相手分節Yの分節集合シグナルに復帰変異が生じるか検討した。元株と比較して作成ウイルスは増殖性の低下がみられ、継代復帰することが確認できた。しかし相手分節Yの分節集合シグナルではない位置に「ウイルス増殖全般を底上げする1アミノ酸変異」や「意義未解明の変異」が得られるのみで、この手法でも分節間相互作用に関与する領域の推定は困難であった。これらの失敗をふまえ、ウイルスRNAポリメラーゼのポリシストロニック発現による人工vRNP作成と、これを用いた試験管内相互作用検出系の構築を開始した。プローブ特性およびウイルス増殖性等によるバイアスをうけないため、今後より詳細に選択的分節集合メカニズムが解析可能になると考えている。
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