組換え酵母を用いてB型肝炎ウイルス(HBV)のL蛋白質を発現させ、組換えHBV粒子を精製した。このウイルス粒子が最も良く結合する細胞とほとんど結合しないヒト由来細胞株を見いだし、それぞれ異なる安定同位体標識アミノ酸含有培地で培養した後に細胞表面蛋白質をビオチン標識し、精製を行った。さらに質量分析法を用い、発現レベルの異なる細胞表面蛋白質を同定し、各蛋白質に対するsiRNAをウイルス粒子が結合する細胞に導入し、ウイルス粒子の結合を減弱させる遺伝子を同定した。同定した蛋白質を粒子が結合しない細胞に発現させると、組換えHBV粒子が結合した。さらにヒトHBVキャリアの血清より精製したHBs粒子の細胞表面への結合も、同定した分子を介している事を示唆するデータが得られた。同定された分子のHBV感染過程への関与を明らかにするため、Sodium taurocholate cotransporting polypeptide (NTCP)発現HepG2細胞において同定分子をノックダウンさせたが、HBVの感染抑制は認められなかった。ノックダウンレベルが不十分であるために感染阻害効果が認められなかった可能性を考え、さらにCRISPR-Cas9システムを用いて同定分子のノックアウト細胞を樹立したが、ノックダウンと同様に、HBVの感染抑制効果は認められなかった。そのため同定分子がウイルス感染以外に関与している可能性についてさらに検討した。HBV粒子がマクロファージのTLRシグナル伝達を阻害するという報告がある事から、THP1細胞を用いて評価したが、ウイルス粒子の添加によるTLRシグナル伝達の阻害は認められなかった。
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