研究課題
マイクロRNA(miRNA)による遺伝子発現制御が宿主細胞のみならずウイルスでも存在することが報告されている。我々のこれまでの解析により、C型肝炎ウイルス(HCV)複製を抑制するmiR-199aは、宿主の脂肪酸合成酵素(FASN)の発現も直接抑制していることが判明した。HCVはFASNの発現を転写レベルで高めるが、一方でFASNはHCV複製に必要である為、両者の制御にクロストークが存在することは示唆されていた。しかし、同一のmiRNAがウイルス遺伝子と宿主遺伝子の双方の発現を制御するクロストークの要であることは新発見であり、その分子機構の解明は必須である。我々はまず、miR-199aの前駆体から生じる二種のmiRNA, miR-199a-5p及びmiR-199a-3pが、FASNに与える影響について解析した。その結果、人工合成した上記の二種のmiRNAが、培養細胞系において共にFASNの発現を抑制し、細胞内の中性脂質の量を低下させることを見出した。FASNの合成する脂肪酸は中性脂質の主な原料でもあることから、この結果は妥当であると考えている。我々はまた、miRNAの選択的な阻害剤であるTuD RNAを用いて、miR-199a-5p又はmiR-199a-3pのノックダウン解析を行った。これらのmiRNAに対するTuD RNAをレンチウイルスにより標的細胞へ導入して、miRNAの機能を阻害した結果、miR-199a-5p又はmiR-199a-3pのどちらを阻害してもFASNの発現が増加し、HCVの複製が活性化することが明らかとなった。二種のmiRNAを同時にノックダウンした場合は、FASNの発現もHCVの複製も更に上昇した。このノックダウン細胞で、FASNの発現をsiRNAにより特異的に抑制してみると、HCVの複製も抑制されたことから、HCVはFASNを介し複製を行うことが判明した。
2: おおむね順調に進展している
「マイクロRNAによるウイルス複製と脂肪酸合成経路のクロストーク制御の分子機構」の研究を行う上で、1. ウイルス複製と脂肪酸合成経路を標的とするマイクロRNA(miRNA)の作用機序の解明、2. ウイルス複製と脂肪酸合成経路のmiRNA標的部位の階層性と優先性の検討、3. ウイルス複製と脂肪酸合成経路を制御するmiRNAによる病原性発現機構の解明、の三点に大きく分けて、試験管内再構成系、培養細胞系とモデル動物系の各レベルの実験を駆使して研究を進めてきた。当該年度の研究により、miR-199aの標的であるHCVとFASNの階層性について明らかにすると同時に、miR-199aのFASNに対する作用機序の一部を解明できたと考えている。特に、miR-199a-3pは直接FASNの発現制御を介してHCV複製をコントロールするが、miR-199a-5pは間接的にFASNを制御していることは、予想外の発見であった。動物モデルでの解析が計画通りに順調に進めば、この計画の目的は達成される見込みである。
当初の計画と比較して、培養細胞系での解析は期待以上に進んでいる。また、試験管内再構成系での解析も準備段階を終えてデータが得られつつある。今後の研究推進上、最も重要な課題は動物モデルでの解析である。人工合成した高価なmiRNAを大量に必要とする実験が必須であることから、これまで慎重に計画を練ってきたが、既に準備段階は終えて実行段階に入っている。動物モデルとしては、HCVの感染することが分かっているヒト肝臓キメラマウス又は、HCV遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを使用する予定である。また、miRNAについては、購入せずに自前で合成する系を既に導入しており、量的な制限を外して計画を進める準備が整っている。
動物実験で使用予定のmiRNAを購入する費用に充てる予定であったが、miRNAの合成を自前で行うことにしたため、費用の削減に成功した。HCV複製を制御するmiRNAと、FASN発現等の脂肪酸合成経路を制御するmiRNAが、病原性の発現にどのように関与するのか、動物モデルを使用して解析する。我々が利用可能なHCV-Tgマウスは、FASNの発現上昇と共に肝炎・脂肪肝・肝繊維症といった病態を示すが、このマウスに、miR-199a等のin vitroで効果の見られたmiRNA又はその阻害剤を導入して、病態変化を観察する。動物実験で使用するマウスの数を、今回繰り越した費用を使って増やすことで、より正確で再現性の良い結果を出すことを期待している。
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