研究課題
基盤研究(C)
ヒト細胞内にはシチジン脱アミノ化酵素であるAPOBEC3ファミリー(ヒトでは AとB、C、DE、F、G、Hの7種ある)が発現している。これらのタンパク質は、HIV が属するレトロウイルスの複製を強力に抑制する細胞防御因子である。各タンパク質は、レトロウイルスの種類によって異なった抗ウイルス作用を示すことが知られている。しかし、その分子機序の詳細は未だ明らかになっていない。そこで本研究課題では、APOBEC3 による抗レトロウイルス作用機序とその特異性を決定する新たな要因を見つけるために、APOBEC3の生化学的特性を網羅的に解析するとともに、APOBEC3の抗ウイルス作用に関与する未同定因子の探索を行う。これらの研究によって、レトロウイルス、特に HIV に対して、APOBEC3 の生体防御機構を活用した新規感染症治療や病態解明などにつながる分子基盤を提供していきたいと考えている。当該年度には、2つの研究成果を得た。1つは、APOBEC3F を中心に APOBEC3 ファミリーの酵素活性の詳細について明らかにすることができた。APOBEC3F の場合、その酵素活性は2つ目のドメインのみに起因し、抗HIV-1作用が最も強いAPOBEC3Gよりも高い酵素活性を保持していた。つまり、酵素活性の強さと抗ウイルス効果の強さは相関していないことが明らかになった。2つ目は、APOBEC3C/F/DE の生化学的特性(HIV-1 Vif 結合能、多量体形成能、酵素活性)について明らかにした。これらの研究結果は、APOBEC3C/F/DE を活用した抗HIV化合物の開発研究だけでなく、APOBEC3 の抗ウイルス分子機序の解明のための貴重な情報につながると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
7種のAPOBEC3 について、野生型だけではなく、各酵素活性中心(グルタミン酸)の点変異型のタンパク質を発現・精製をし、酵素活性や多量体形成能などの生化学的解析を完了した。初年度、これらの研究成果(APOBEC3C/F/DE)の一部(多量体形成能に関するデータ)は、APOBEC3Cタイプの HIV-1 Vif 結合インターフェイスに関する研究論文(Nature Structural & Molecular Biology19. 1005-, 2012)掲載に欠かせない成果情報となり、APOBEC3 の貴重な学術的情報を公開できた点では計画以上に進んだ感がある。さらに、これらの研究成果について、米国で開催されたゴードンリサーチカンファレンス(RNA editing)においても講演し、研究成果について討論する機会が持てた。このことからも、本研究課題は、総じて研究計画通りに進展していると考えられる。
研究計画に従って、APOBEC3 ファミリータンパク質の抗ウイルス作用機序を解析する。今後は、HIV-1 感染細胞および精製ウイルス粒子を用いて、ウイルスコア(逆転写複合体)内で生じる逆転写反応に対する APOBEC3 の阻害効果を詳細に解析する。また、これらの実験系を利用して APOBEC3 の抗ウイルス分子機序に関与する可能性がある未同定因子の探索研究にも力を注いでいきたい。これまでの研究成果から、APOBEC3G による逆転写伸長反応抑制効果には、APOBEC3G の多量体形成能が深く関与し、F126/W127 残基が重要であることを突き止めた。そのため、多量体形成能を欠損させた変異型 APOBEC3G を作製し、野生型と比較することにより、逆転写伸長反応阻害機序の詳細を明らかにしたいと考えている。この実験には、タンパク質の結合状態を計測するために一分子の核酸を用いた特殊な解析技術 (Single Molecule DNA Stretching 法)が必要であり、米国の研究者の協力を得て推し進める計画である。
該当なし
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