研究課題
APOBEC3 ファミリーは、HIV やレトロトランスポゾンを含むレトロウイルスに対して強い増殖抑制効果を示す細胞内防御因子である。ヒトでは、22番染色体上にタンデムに APOBEC3 遺伝子群(AとB、C、D、F、G、Hの7種)としてコードされ、レトロウイルスとの共進化により霊長類以降で増幅・構築された遺伝子群である。本研究課題では、APOBEC3 による抗レトロウイルス作用メカニズムと特異性を決定する新たな要因を見出すために、APOBEC3 タンパク質の生化学的な特性を網羅的に解析し、APOBEC3 による抗ウイルス作用に関与する未同定因子の探索を行っている。2年目である当該年度では、APOBEC3 の核酸への結合特性について重点的に研究を進めた。その結果、一本鎖核酸に対する高い親和性(解離定数)はAPOBEC3 のホモ多量体形成能の有無と相関していた。さらに、その核酸結合強度は、vif 欠失型 HIV-1 ウイルス粒子への取込みの効率とも相関しており、多量体形成(おそらく二量体形成)が重要であるという新たな知見を見出した。さらに、抗 HIV-1 作用が最も強い APOBEC3G に関して、一分子の核酸を用いた結合解析技術 (Single Molecule DNA Stretching 法) により、タンパク質の結合状態を計測(計測は、米国の研究者との共同研究により行われた)した。その結果、APOBEC3G には2つのステップ、核酸結合モード、早く弱い結合・解離と強く遅い解離モードが存在し、後者のモードでは核酸上における APOBEC3G の多量体形成(F126/W127 残基が重要)が寄与していることが見出された。このことは、我々が以前報告した「APOBEC3G による逆転写伸長反応抑制効果には、APOBEC3G の未解明な核酸結合特性が関与する」(Nucleic Acids Research, 2007)現象は APOBEC3G の多量体形成能が深く関与していたということにつながり、APOBEC3 の抗ウイルス作用の分子メカニズムに関する新たな知見につながると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
発現・精製した 7 種の APOBEC3 タンパク質を活用して、核酸結合および多量体形成能について詳細な解析を進めることができた。多量体形成能がウイルス粒子への取込み効率と相関しており、APOBEC3 が逆転写反応過程で抗ウイルス作用を発揮しうることと結びつくことが明らかになった。さらに、一分子 DNA 結合解析技術(共同研究)により、APOBEC3G の抗ウイルス作用メカニズム(酵素活性非依存的なメカニズム)について、多量体形成によって誘導される“遅く強い核酸結合・解離モード”が関与していることを見出した。これらの研究成果の一部は、APOBEC3G による抗 HIV 作用の分子メカニズムに関する研究論文 (Nature Chemistry 6. 28-33, 2014) の掲載に欠かせない成果情報となり、APOBEC3 に関する貴重な学術的情報を輩出できた点では計画以上に進んだ感がある。さらに、一連の研究成果について、シンガポールで開催されたアジア太平洋細胞生物学会 (7th APOCB) や第 14 回熊本エイズセミナーなどにおいても招待講演を行い、研究成果について発表し討論する機会をもてた。これらことからも、当各年度の本研究課題は、総じて研究計画以上に進展していると考えられる。
最終年度として、これまで蓄積した生化学的データに基づき APOBEC3 による抗ウイルス作用メカニズムを精査し、本研究課題に関する成果を輩出することに重点をおく。さらに、当初の計画通り、HIV-1 感染細胞あるいは精製ウイルス粒子などを用いて、粒子コア(逆転写複合体)内で生じる逆転写反応(内在性逆転写反応)に対する抗ウイルス作用メカニズムを in vivo の視点からも検証する研究、および APOBEC3 の抗ウイルス分子メカニズムに影響を与える未同定因子の探索研究も継続して行う。最終的に、APOBEC3 ファミリータンパク質の抗レトロウイルス作用メカニズムの全容解明を目指したい。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 4件)
Nature Chemistry
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