抗原特異的な免疫応答における免疫記憶の成立は感染症や腫瘍などに対する生体防御の要であり、ワクチン開発の原動力となる。この記憶細胞として体内に維持される主要な細胞はリンパ球であることが知られている。メモリーCD8T細胞は機能的に複数の細胞に分類できるが、私たちは、特に抗原の再刺激時に非常に機能的に働くセントラルメモリーT細胞に転写因子Bcl6が高く発現すること およびその維持にBcl6が必要であることを明らかにした。しかし、メモリー細胞の分化段階でのBcl6の役割はわかっていない。本課題ではメモリーCD8T細胞の分化過程における転写因子の役割を明らかにすることを目的とする。 Bcl6遺伝子改変マウス由来CD8T細胞等を移入して行った免疫実験の結果、Bcl6の発現が活性化早期から誘導されること、メモリー前駆細胞でBcl6の発現が高いこと、その分化にBcl6の発現が必要であることを明らかにした。 さらにこの過程でCD8T細胞上のCD25(IL2受容体の分子の一つ)の発現とIL2刺激の強度がBcl6で負に制御されていることを明らかにし、培養系における活性化でも同様の結果を確認した。また、CD25のプロモータ領域にBcl6が結合していることをChIPアッセイで確認した。 サイトカインはリンパ球の機能的分化に大きな影響を与えるが、IL2はエフェクターT細胞の分化を促進し、一過性に防御機能を上げるが、メモリーT細胞の維持には負に働く。本研究でBcl6は細胞活性化後早期にIL2受容体の発現を負に調整することでエフェクター細胞への分化を抑制し、メモリー前駆細胞の分化に関わっていることを明らかにした。
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