研究課題
免疫学的記憶は免疫現象の根幹をなす特徴の一つであり、感染症における「2度なし」やワクチンの基盤となる機構であるが、その分子基盤は依然不明な点が多い。有効なワクチン開発や感染症の制御にとって免疫学的記憶機構の基本的理解を深化させることは必須である。従来の研究から見出している「メモリーT細胞の維持にNotchシグナルが必須である」との知見を基盤として、本研究ではNotchシグナルによるメモリーT細胞維持機構の分子基盤を明らかにすることを目的としている。昨年度の研究からNotchシグナル欠損(Rbpj遺伝子欠損)CD4陽性T細胞ではグルコース取り込みに障害があることを見出した。そこで本年度はその分子機構の解明に注力した。グルコース取り込みにはグルコーストランスポーターが関与しており、T細胞では主にGlut1とGlut3が発現している。そこで、Notchシグナル欠損CD4 T細胞でのGlutの発現をフローサイトメトリ―法により検討した所、Glut1のインスリン誘導性発現上昇が減弱していた。Notchシグナル欠損T細胞においてもGlut1、Glut3のいずれ遺伝子の転写も野生型と同等であったため、グルコース取り込み障害はグルコーストランスポーターの局在制御に障害があると考えられた。インスリン刺激によるGlut局在制御に関与しているシグナル伝達経路としてPI3K/AKT経路が明らかになっている。そこで、この経路に関与する遺伝子群の発現をリアルタイムPCR法により検討したがNotchシグナル欠損CD4 T細胞で発現変動のある遺伝子は現在までの所見出せていない。そのため、さらに可能性のある遺伝子群に検討範囲を広げる予定である。
2: おおむね順調に進展している
現在Notchシグナル欠損(Rbpj遺伝子欠損)によりメモリーT細胞のグルコース代謝に影響があることを見出している。グルコース取り込み障害により細胞内エネルギー不足となり結果としてT細胞の生存・維持が障害されると考えている。いかにNotchシグナルがグルコース取り込みを制御しているのかの分子メカニズムを明らかにすることが今後の課題である。メモリーT細胞の生存・維持を制御するNotchシグナルの標的がグルコース取り込みの制御にであるということを突き止めているため、現在までのところ本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
Notchシグナルは遺伝子発現を直接制御しているシグナル伝達経路であるため、グルコース取り込みの障害は特定の遺伝子発現の変化によって齎されたものであると考えられる。現在PI3K/AKT経路に関連する遺伝子群がNotchシグナル欠損(Rbpj遺伝子欠損)によって変化しているか否かを検討している。しかし、これまでの所責任遺伝子を同定するには至っていない。今後、検討する遺伝子を増やすとともに、PI3K/AKT経路のリン酸化などの修飾について解析を進めていく予定である。Notchシグナルの人為的操作によってメモリーCD4 T細胞の生存・維持を調節するという目的に対しては、次の2点について検討する予定である。1)メモリーT細胞生存・維持の増強に対して:Notch1/Notch2遺伝子を欠損するCD4 メモリーT細胞でも生存・維持に障害があるとの知見から、Notch2シグナルを人為的に増強するというアイデアに基づいた検討を行う。抗Notch2アゴニスト抗体によりNotch2シグナルを人為的に増強させた場合、メモリーT細胞に依存した免疫応答がどのように変化するのかを解析する。2)メモリーT細胞生存・維持の阻止に対して:ある種の自己免疫疾患では自己反応性メモリーT細胞が反復性に活性化され病勢を強めることが知られている。自己反応性メモリーT細胞の生存を阻止することで反復する自己免疫疾患の根本的に治療できるのではないかという点について検証する。実験的自己免疫性脳脊髄炎再発モデルに対して病状消失期にNotchシグナル阻害剤を投与することでその後の再発を阻止/軽減できるかどうかを検討する。
ほぼ計画通りの助成金使用を執行できたが、一部の試薬が当初予定より安価であったため次年度使用額が若干生じた。翌年度分と合算し、研究計画遂行に当てる。当初予定の試薬等の購入に際し翌年度から消費税が増税分の補填の一部としたい。
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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