中国では伝統医学の近代化を図り、古典を基にその体系の基礎を教科書『中医基礎理論』として使用している。日本では独自の発展を遂げたが、それらを反映した研究資料や教科書がない。一方、伝統医学の標準化が世界レベルで進められる中、日本は会議において基礎資料が不足しているため、苦戦を強いられている。日本の伝統医学の古典に基づいた体系化・近代化をさらに進め、世界の標準化 に強く参画するためにも、日本の古典に基づいた理論基盤を整備し、それを反映した研究資料・教科書を作成する必要がある。 現存、閲覧可能な文献を対象とし、主に鍼灸と関連する文献資料についてデジタル媒体にない文献も収集し、整理を行った。 本調査においては伝統医学の基礎理論について以下のような成果を得た。日本の伝統医学は、ともすれば診察や治療の技術に注目されがちであるが、その基礎となる世界観や身体観、病因観等の理論も有していることが明らかになった。それらは中国医学やアーユルヴェーダといった国外の伝統医学だけでなく、仏教や儒教(主に朱子学)、蘭学等の影響も受けており、他の伝統医学と類似点を有しつつも「腹の虫」等日本独自の理論や運用方法を生み出した。特に鍼灸においては実証主義、経験主義が強く、基礎理論も臨床応用可能なものに集約される傾向も見られた。明治以降は制度の見直しにより西洋医学が中心となるが、それらを利用した伝統医学の解釈が盛んに行われ、臨床応用のための基礎理論の再整理・復興も行われたと言えよう。 日本の文献を対象とした伝統医学の基礎理論の網羅的な調査によって、古代から現代までの基礎理論の概要が明らかになった。現在、ISOにおいて伝統医学の専門用語を含む医療情報の標準化が進められているが、日本の状況を反映する重要な根拠資料となり得る。
|