研究課題/領域番号 |
24590653
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森口 茂樹 東北大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (70374949)
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研究分担者 |
福永 浩司 東北大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (90136721)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | CaMキナーゼII / T型VGCC / 認知機能調節 / ST101 / whole-cell patch-clamp法 |
研究概要 |
ST101は低濃度(0.1-1.0 nM)においてラットの体性感覚皮質のCaMキナーゼIIの自己リン酸化の亢進を介して、認知機能調節の指標であるLTPを有意に増強することを見出した。一方、海馬CA1領域においても、有意なCaMキナーゼIIの自己リン酸化の亢進が認められるが、体性感覚皮質と比較して微弱なものであった。さらに、CaMキナーゼIIのpre-terminalの基質であるシナプシンIならびにpost-synapticな基質であるGluR1のリン酸化を検討したところ、GluR1のリン酸化の亢進が認められた。本結果より、CaMキナーゼIIの自己リン酸化の亢進はpost-synapticな影響によるものが推察される。体性感覚皮質において記憶学習の指標である長期増強現象(LTP)を用いてST101の影響について電気生理学的解析により検討した。ST101による体性感覚皮質のLTPの増強およびCaMキナーゼIIの自己リン酸化の亢進は、T型VGCCの阻害薬であるmibefradil(1μM)により有意に抑制されることが明らかになった。この結果、ST101は体性感覚皮質においてT型VGCCの賦活化を介してカルシウムの細胞内への流入を促進し、CaMキナーゼIIの活性化を誘導することが推察される。さらに、whole-cell patch-clamp法によりT型VGCCのサブユニットであるCav3.1(α1G)チャネルを過剰発現させたNeuro2A細胞において、ST101は有意にT型VGCC内向き電流を増強し、カルシウムイメージング法においても細胞内カルシウム濃度を有意に増強させた。本調査研究により明らかにしたT型VGCCの賦活化が認知機能調節に関与する結果は、世界で始めての報告であり、認知機能調節における細胞内カルシウムの制御にT型VGCCの賦活化が重要でることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
T型VGCCの認知機能調節への関与という本結果は、世界で初めての報告である(Moriguchi et al., J. Neurochem., 2012)。現在、in vivoにおけるマイクロダイアリシス法を用いた海馬におけるアセチルコリンの遊離作用がT型VGCCを介していることも見出しており、本結果は、当初の計画以上に進展していると言える。また、ST101の誘導体であるSAK1-5の5種類の誘導体より、申請者はSAK3にST101より強力なT型VGCC作用を見出しており、その点でも当初の計画以上に進展していると言える。新規認知機能改善薬であるST101 は、現在、アルツハイマー病治療薬の候補化合物として米国において臨床試験(Phase II)を行っている。これまでの基礎研究の報告では、ST101の繰り返し投与によりニコチン刺激によるアセチルコリン放出がamyloid-β(Αβ)注入ラットにおいて増強する。ST101は嗅球摘出マウスにおいて海馬の長期増強現象(LTP)をCaMキナーゼIIおよびプロテインキナーゼCの活性化を介して改善する、ST101は Αβ の過剰発現型マウス(3×Tg-ADマウス)において α-secretaseおよび β-secretase経路以外の新しいAPPプロセッシング経路を誘導することで、Αβ の凝集を抑制することが報告されている。これらの報告からも、T型VGCCの新たな認知機能改善作用が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
高齢化社会に伴いアルツハイマー病(AD)患者の増加は深刻な社会問題である。最近の研究によりAD患者の脳内ではβ-amyloidの凝集、沈着が進行性神経変性疾患を惹起し、認知機能障害を誘発することが明らかになった。現在、創薬研究としてAD患者の脳内におけるβ-amyloidの凝集阻害薬、ワクチンの開発が進められているが臨床応用には至っていない。一方、進行性神経変性疾患に注目した研究として、アセチルコリン(ACh)神経系の機能低下に注目したAChの賦活化作用をもつコリンエステラーゼ阻害薬が開発され、tacrine、donepezil、rivastigmineおよびgalantamineが承認を受けた。また、神経細胞保護作用に注目したNMDA受容体阻害薬であるmemantineも同様に承認を受けた。日本では最近、rivastigmine、galantamineおよびmemantineが新たに承認を受けたが、長年、donepezilのみが利用可能な状況が続き、欧米に遅れを取っている状況である。しかし、これらの治療薬の効能は十分ではなく、悪心、嘔吐、下痢等の副作用も認められ、AD患者のquality of life (QOL)と症状を長期に改善する治療薬は存在していない。本研究に用いているST101は、これらの治療薬と異なるT型VGCCの賦活化による新しい可能性がある治療候補薬である。現在、APP23マウス(Αβ の過剰発現型マウス)を用いてST101の治療効果について検討中であり、ST101によるT型VGCC賦活化およびΑβ の凝集抑制という2つの側面より認知機能調節について検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、研究経費として消耗品に100万円を使用する。内訳として、電気生理学実験の消耗品は、50万円、生化学実験の消耗品は、30万円、実験動物に20万円を使用する予定である。また、成果発表のため、北米神経科学学会への参加費用として20万円、国内学会(日本神経精神薬理学会)への参加費用として10万円を使用する予定である。また、分担研究者である福永浩司(東北大学大学院薬学研究科・教授)に生化学実験消耗品として20万円を分担する。
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