研究課題/領域番号 |
24590660
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
今井 輝子 熊本大学, 薬学部, 教授 (70176478)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / プロドラッグ / 関節 / 加水分解 |
研究概要 |
変形性膝関節症の患者数は増大しつつあるが、薬物治療法としてはステロイド剤およびヒアルロン酸の投与のみである。これは、血液-関節間の物質移行が速く、関節内で薬物を有効に作用させられないことが一因である。本研究は、関節内に医薬品を留めるために、数100nm~μmのサイズのナノ粒子として投与し、その後、ナノ粒子から溶出したプロドラッグが滑膜細胞に移行し、酵素的に活性医薬品に変換して、持続的な薬効を発揮する投与システムの開発を目的としている。平成24年度はまず、関節液および滑膜細胞に存在する加水分解酵素の同定および機能解析を行った。 その結果、関節液中には血液から漏出したタンパク質が存在し、加水分解酵素として、HDLの構成成分であるパラオキソナーゼ(PON)およびブチリルコリンエステラーゼ(BChE)が、病状に依存して存在した。BChEは血中に高濃度で存在するものの、その機能は未だ不明である。今回、その機能の1つとして、金属イオンとの結合を明らかにし、金属イオンキャリアーとして関節炎の悪化に寄与している可能性を明らかにした。また、滑膜細胞としてヒトおよびウサギの細胞を用いて、非変性PAGE・4-メチルウンベリフェリルアセテート蛍光染色により確認した.その結果、いずれの動物種においても数種の加水分解酵素が存在し、阻害様式からPON様のエステラーゼ分子の存在とカルボキシルエステラーゼ(CES)様の酵素の発現が認められた。さらに、関節内に投与したナノ粒子が関節腔から滑膜細胞に取り込まれる可能性について検討した。その結果、直径1μMのビーズが24時間後に細胞に取り込まれることが明らかとなり、ナノ粒子そのものが滑膜細胞に移行する可能性を明らかにした。 次年度は主に、滑膜細胞内の酵素について機能解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関節は血液との物質交換が速やかであり、炎症によって血液から高分子量のタンパク質が関節腔に漏出するようになる。本研究では、血管移行できないサイズのナノ粒子を関節内投与剤とし、その中に封入したプロドラッグがナノ粒子から溶出して滑膜細胞に取り込まれ、滑膜細胞内で変換した活性医薬品が持続的な薬効を示すDDSを開発するために検討を進めている。平成24年度は、まず、関節腔および滑膜細胞に存在する酵素の同定ならびに機能解析を行った。関節液中に加水分解酵素として存在するパラオキソナーゼ(PON)およびブチリルコリンエステラーゼ(BChE)のうち、特にBChEについて詳細に検討した。その結果、BChEは限られた構造の基質しか認識しないことに加え、2価金属イオンと結合することを見出した。カルシウムおよびマグネシウムは、2つの結合サイトに結合し、基質の加水分解活性に影響することを初めて見出した。一方、亜鉛イオンは非常に強く結合して、活性を完全に阻害した。関節炎の悪化にはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が関与するが、その活性中心は亜鉛で構成されている。BChEは亜鉛のキャリアーとして、関節炎の悪性化に関与する可能性が推察された。滑膜細胞内の酵素については、同定までは至らなかったが、動物種を問わず、2種の酵素(PON様酵素およびカルボキシルエステラーゼ様酵素)が存在し、基質認識性は広いものと考えられた。さらに、滑膜細胞の貪食能について検討した結果、直径1μm程度の大きさのビーズを効率良く取りこむことから、関節腔に滞留させて、遊離したプロドラッグが滑膜細胞内に移行するのではなく、粒子として滑膜細胞に取り込ませるDDS製剤として開発できる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、引き続き、関節腔および滑膜細胞に存在する酵素の詳細な特徴を検討する。まず、関節腔に存在するブチリルコリンエステラーゼ(BChE)について、亜鉛イオンの結合状態を解明する。さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)に対する亜鉛イオンの供給原である可能性について、MMP13を用いて検討する。関節腔での亜鉛イオンの捕捉が炎症の進行を抑制するかどうか明らかにし、亜鉛捕捉剤の薬としての可能性を検討する。また、滑膜細胞酵素については、現在までに少なくとも2種の加水分解酵素の発現を見出しているが、同定に至っていない。これらの酵素を同定するために、電気泳動によるタンパク質の微量分取を検討する。タンパク質のN末アミノ酸配列の同定および分子質量分析により酵素を同定する。次に、同定した酵素を滑膜細胞よりクローニングし、HEK293細胞を用いて大量に発現し、基質認識性、活性阻害剤、活性促進剤など酵素活性に影響与える因子を検討する。さらに、前年度に明らかにした滑膜細胞の貪食作用について、異なる高分子から調製したナノ粒子の細胞内動態、また、粒子の取込みによる滑膜細胞の小器官に対する障害、および、加水分解酵素の発現量に及ぼす影響を検討する。当初、ナノ粒子は関節腔に滞留し、ナノ粒子から遊離したプロドラッグが滑膜細胞に移行するDDSを想定していたが、ナノ粒子自体が細胞内に取込まれることを明らかにしたため、当初の計画を一部変更した実験を計画する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の遂行に当たり、遺伝子実験および細胞培養のための実験設備、さらに加水分解活性を測定するための設備は整っている。プロテオーム解析(アミノ酸配列解析、質量分析)および塩基配列解析は、解析時間の短縮のため、受託機関に依頼する予定である。消耗品として遺伝子工学用試薬類(cDNAクローニング用試薬、発現系試薬等)、細胞培養用試薬・器具類、タンパク質精製用試薬類、その他実験に必要な器具・試薬類の購入経費に充てる。
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