研究課題/領域番号 |
24590660
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
今井 輝子 熊本大学, 薬学部, 教授 (70176478)
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / プロドラッグ / 関節 / 加水分解 |
研究概要 |
変形性膝関節症の患者数は増大傾向にあるが、治療薬物としてはステロイド剤、抗炎症薬、ヒアルロン酸等に限られている。これは、血液-関節間の物質移行が速く、関節内に薬物を滞留できないことが一因である。本研究は、関節内に医薬品を留めるために、数100nm~μmのサイズのナノ粒子として投与し、その後、ナノ粒子から溶出したプロドラッグが滑膜細胞に移行し、酵素的に活性医薬品に変換して、持続的な薬効を発揮する投与システムの開発を目的としている。 まず、プロドラッグの活性化に利用できる酵素を明らかにするために、関節液および滑膜細胞に存在する加水分解酵素の同定および機能解析を行った。その結果、関節液中には血液から漏出したパラオキソナーゼ(PON:HDLの構成成分)およびブチリルコリンエステラーゼ(BChE)が存在し、その濃度は病状に依存して増加することを明らかにした。また、BChEは正常では4量体として存在するが、病状の悪化に伴って会合度が変化すること、BChEは亜鉛との結合が強く、関節炎の悪化に寄与している可能性を明らかにした。また、ヒトおよびウサギの滑膜細胞に存在する酵素については、数種の加水分解酵素が存在し、PON様のエステラーゼ分子とセリンプロテアーゼの発現が認められた。 さらに、ポリスチレンビーズを用いた実験から、滑膜細胞は取り込み能が高く、関節液中に投与された粒子は、細胞に取り込まれることが判明した。したがって、関節液内で粒子から放出されたプロドラッグだけでなく、粒子として細胞内取り込まれた後に、放出されたプロドラッグも活性を示すことから、長時間滞留型のDDS製剤に開発できる、可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変形性関節炎をターゲットとしたDDS製剤として、プロドラッグに加えて、ソフトドラッグについてもその可能性を広げて検討した。プロドラッグは関節内で活性化するものであるが、ソフトドラッグはそれ自身が関節内で活性を示し、全身循環では不活化する安全性の高い医薬品である。プロドラッグおよびソフトドラッグの代謝・安定性を考慮したデザインのために、関節液あるいは滑膜細胞に存在する加水分解酵素の同定と機能解析を行った。さらに、関節内に滞留させるために利用する予定の粒子が滑膜細胞に与える影響について検討を加えた。 関節液に存在する血液由来のパラオキソナーゼ(PON)およびブチリルコリンエステラーゼ(BChE)について、酵素-基質反応特性を検討した結果、BChEは基質認識性が狭く、2価金属イオンの影響を受け、亜鉛は活性を著しく低下することを明らかにした。他の金属イオンは、基質によって影響が異なり、活性を増大する場合も低下する場合もあり、DDSへの応用は不向きと判断した。一方、PONについては、ある構造のステロイド化合物を加水分解することを見出し、ステロイド化合物をソフトドラッグとして開発し、その不活化にPONが利用できる可能性を見出した。 さらに、滑膜細胞は、直径1μm程度の大きさのビーズを効率良く取りこみ、ビーズを取り込んだ細胞の加水分解酵素レベルが上昇し、加水分解活性を増大する傾向にあることを見出した。 さらに、本年度は新たに熊本大学整形外科との共同研究に参画し、患者の関節液に存在する血液由来の加水分解酵素について検討した。その結果、病状の進行に応じて、PONおよびBChEの関節液内濃度が増大するとともに、BChEのタンパク質としての存在状態が病状悪化に伴って変化することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、引き続き、血液由来の酵素の加水分解特性について明らかにし、論文化を進める。また、関節炎の病状とBChEの存在状態の関連性について、タンパク質レベルで詳細に検討する。BChEの構造変化を惹起している物質は、病状の進行を判断するバイオマーカーとして利用できる可能性があり、当初の研究計画には含まれないが、検討を進める予定である。 一方、滑膜細胞に存在する加水分解酵素については、これまでの阻害剤実験からセリン活性中心を持つ酵素の存在を明らかにしている。セリン活性中心に不可逆的に結合する有機リン化合物(FP)にビオチンを結合させたFP-ビオチンを合成して、酵素を単離する。また、これまでに、明らかにした滑膜細胞の貪食作用と酵素活性の関係について、発現が増大した酵素を同定し、DDSターゲットして応用可能かどうか判断する予定である。
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