関節は滑膜細胞に囲まれた閉鎖空間に関節液が満たされており、DDSの格好のターゲットである。しかしながら、関節内に投与された医薬品の動態を予測するための情報が乏しく、ステロイド剤、抗炎症薬、ヒアルロン酸等の治療薬しかないのが現状である。本研究課題では、関節内投与DDS製剤の開発を目的として、関節液に存在する血漿成分および滑膜細胞酵素を解析してきた。これまでに、HDLが関節液に存在することから、血液-関節間の物質移行の制御には数100nm~umのサイズが必要であり、滑膜細胞にはシステインエステラーゼおよびセリンエステラーゼが存在することを明らかにした。本年度は変形性膝関節症患者の関節液に存在する血漿エステラーゼと病態グレードとの相関を検討した。さらに、ナノ粒子に充填するためのソフトドラッグを選択し、ヒト培養滑膜細胞および関節液での代謝を検討した。 関節液には、血液成分としてアルブミン、パラオキソナーゼ(PON:HDLの構成成分)およびブチリルコリンエステラーゼ(BChE:4量体)が存在し、その濃度はグレードⅢで最高に達し、グレードⅣでは低下した。興味深いことに、2量体BChEはグレードⅣでも増大し、2量体/4量体比は病態グレードに伴って直線的に増大することから、マーカーとしての可能性が示された。また、グレードⅡおよびⅢの患者では、関節液中のBChE濃度と亜鉛濃度の間に正の相関があり、BChEによって運搬された亜鉛が、関節炎悪化の一因であるMMP13の産生を促進する可能性が考えられた。 一方、プレドニゾロンの不活性代謝物から設計されたソフトドラッグの加水分解を検討した結果、ロテプレドノールおよびエチプレドノールは肝臓や滑膜細胞では加水分解されず、PONによってのみ代謝不活性化された。また、その分解速度は十分に遅く、関節投与DDS製剤に応用できる候補医薬品と考えられた。
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