肝や脂肪組織などの末梢体内時計は、細胞内においてAMPキナーゼやPGC-1αなどの代謝関連鍵分子と相互に発現を制御しながら、代謝の恒常性を維持している。近年、末梢時計障害は2型糖尿病を初めとする生活習慣病の一因であることが判明した。そこで本研究では、それらの代謝関連鍵分子を標的とする2型糖尿病治療薬を用い、末梢時計障害を改善することにより効果的に代謝異常を治療する投与方法を動物モデルにおいて開発し、臨床応用につなげることを目的とした。 まず、正常マウスを用いて末梢時計制御薬の探索を行ったところ、AMPキナーゼ・PGC-1α経路に作用する治療薬であるメトホルミンおよびGLP-1アナログが末梢(肝・脂肪組織)時計に影響することを見出した。末梢時計の時刻は摂食の影響を強く受けることが知られており、GLP-1も主に摂食時に分泌されるホルモンであることから、次に、GLP-1アナログと摂食の末梢時計への作用の差異を検討した。その結果、GLP-1アナログは摂食とは異なる様式により末梢時計へ作用し、その作用の強さは摂食と同等以上であることが判明した。 次に、遺伝的肥満2型糖尿病モデルマウスであるob/obマウスに対し、これらの薬物を末梢時計を改善する時刻または障害する時刻に投与したところ、代謝改善効果におよぼす投与時刻の影響は認められなかった。そこで、まず、糖代謝における末梢時計の関与を明らかにする目的で、末梢(肝)時計の空腹時血糖におよぼす影響を検討し、その重要性を確認した。さらに、生活習慣(食餌・照明条件)により末梢時計障害と代謝異常の両者が惹起されるモデルを新たに開発した。今後、このモデルを用い、末梢時計を標的とした薬物療法の有用性を再度検討する予定である。
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