研究課題/領域番号 |
24590667
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
荻原 琢男 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (80448886)
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研究分担者 |
森本 かおり 高崎健康福祉大学, 薬学部, 講師 (90401009)
梶田 昌裕 高崎健康福祉大学, 薬学部, 准教授 (40591871)
井戸田 陽子 高崎健康福祉大学, 薬学部, 研究員 (90629594)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | P-糖タンパク / radixin / 消化管吸収 / トランスポーター / 多剤耐性 |
研究概要 |
今年度は、足場タンパクとして知られるradixinの遺伝子欠損型(Rdx-/-)マウスを用いて、主に小腸粘膜のP-糖タンパク質(P-gp)活性及び細胞膜上発現量制御におけるradixinの寄与に関しての検討を行なった。 まず、野生型マウスとRdx-/-マウスの小腸粘膜細胞における、P-gp総発現量及び細胞膜上発現量を確認した。その結果、野生型マウスのP-gpは、細胞全体及び細胞膜上共に上部から下部にかけて増加しており、発現部位差が確認された。radixinのタンパク発現量においても同様の増加が細胞全体と細胞膜上の両方で確認された。一方、Rdx-/-マウスにおいては、野生型マウスと比較してP-gpの細胞内総タンパク発現量に変化は見られなかったものの、細胞膜上発現量は減少し、上部と下部の発現量差がなくなったために細胞膜上発現の部位差が消失していた。 次に、P-gpの基質として知られるrhodamine123(Rho123)をマウスに経口投与することで、小腸におけるP-gpの輸送機能を評価した。野生型マウスと比較して、Rdx-/-マウスでは顕著な吸収増加が確認された。これに対して、消失半減期には差が認められなかったことから、消失相は変化していないことが示された。加えて、受動拡散によって吸収されるアンチピリンの体内動態は、野生型マウスとRdx-/-マウスの間で差は認められなかった。一方、P-gp遺伝子欠損型(Mdr1a/b-/-)マウスにおいては、野生型マウスと比較して、血中濃度の顕著な増加が確認された。また、Rho123は腎排泄型の薬物であることから、Mdr1a/b-/-マウスにおける血中濃度の増加は消失相が阻害されたことに由来するものと考えられた。 以上の結果より、消化管P-gpの細胞膜上局在および基質輸送活性はradixinによって制御されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットの小腸において、P-gpの発現量には上部から下部にかけて部位差が存在した。加えて、P-gp基質を投与した際には血漿中薬物濃度に二峰性が見られ、P-gp阻害剤を同時に投与するとこの二峰性が消失したことから、この二峰性にはP-gpの小腸発現部位差が関与していることを明らかとした(Drug Metab. Pharmacokinet.掲載)。また、マウス小腸におけるP-gp膜上発現の部位差にradixinが関与しており、この膜上発現の制御によってP-gpの基質輸送活性も制御されていること、腎臓のP-gp機能にはradixinは関与していないことといった新たな見解を示唆する結果を得ることができている(日本薬剤学会にて発表)。タイトル【Contribution of radixin to P-glycoprotein expression and transport activity in mouse small intestine in vivo】にて、Journal of pharmaceutical scienceに投稿中。 さらに非常に薬物の透過性が低いといわれ、新薬の開発が進みづらい原因となっている脳の毛細血管においてもP-gpは発現しており、脳組織内へのP-gp基質透過性に対するradixinの寄与を示唆する結果も得ている(日本薬物動態学会にて発表)。 現在、Rdx-/-マウスを用いて腎臓のP-gp細胞内局在に対するradixinの寄与を明らかとすべく、腎膜画分の精製に着手している。また、結腸癌由来細胞を用いてP-gpの基質輸送能とradixinの関連を検討するため、RNAi法によるradixinのノックダウンおよびP-gp基質の取り込み実験に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
Rdx-/-マウスを用いた検討により、radixinによるP-gp機能制御には臓器部位差が存在することが示唆された。このため、腎臓におけるP-gpの膜上発現とradixinの関係を明らかとする。一方、ヒト由来の各種臓器癌細胞を用いてP-gpの機能評価を行ない、radixinをRNAi法によってノックダウンした細胞と未処置の細胞とを比較することで、radixinによる癌種特異的なP-gp機能制御を明らかとする。評価方法としては、P-gp基質を細胞に添加し、一定時間後の細胞内蓄積量を計測する。加えて、細胞全体と細胞膜上のP-gpタンパク発現量をWestern blotting法により確認することにより、P-gpの膜上局在におけるradixinの関与を明らかとする。さらに、癌細胞を皮下移植することで、担がんマウスを作製する。in vivo RNAi法を用いて、このマウスのradixinをノックダウンし、P-gp基質となる抗悪性腫瘍薬を投与した際の腫瘍部位における薬物集積性、抗腫瘍効果を検討、観察する。他の排出トランスポーターに対する特異的な基質を用いることで、radixinがP-gp以外の排出トランスポーター機能制御に関与しているのか否かの検討を並行して行なう。radixinとP-gpおよび他の排出トランスポーターの抗体を用いて、免疫沈降法または共免疫染色法にて整理的条件下でのradixinとの結合を検討し、P-gpの局在制御にはradixinとの相互作用が寄与していることを明らかとする。以上の検討を論文投稿を通して広く公開し、P-gpを始めとした排出トランスポーターが原因となっているがん多剤耐性を回避するために、radixinが新たな創薬ターゲットとして有用であることを提示していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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