研究課題/領域番号 |
24590667
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
荻原 琢男 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (80448886)
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研究分担者 |
森本 かおり 東北薬科大学, 薬学部, 講師 (90401009)
梶田 昌裕 高崎健康福祉大学, 薬学部, 准教授 (40591871)
井戸田 陽子 高崎健康福祉大学, 薬学部, 研究員 (90629594)
矢野 健太郎 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助手 (40644290)
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キーワード | P-糖タンパク / ラディキシン / 消化管吸収 / トランスポーター / 多剤耐性 / 脳組織移行性 / シルニジピン / 脳保護作用 |
研究概要 |
P-糖タンパク質(P-gp)は、がん細胞をはじめとして正常な小腸、腎臓および脳血管などに発現し、薬物の吸収、分布および排泄を制御している。25年度はP-gpの細胞膜上の発現量と輸送機能が、radixinと呼ばれる足場タンパクによって調節されていることをin vivoおよびin vitroで明らかにした。さらに、降圧薬であるシルニジピンの脳虚血時における脳移行に、P-gp機能のスイッチングが関与していることを明らかにした。 野生型マウスの小腸におけるP-gpのタンパク発現量は、細胞内および膜上どちらにおいても上部から下部にかけて増加していた。これに対して、Rdx-/-マウスにおいては、細胞内のP-gpタンパク発現量は野生型と同様の増加を示したのに対し、膜上発現量は上部から下部にかけて減少していた。さらに、P-gpの基質として知られるrhodamine123(Rho123)をマウスに経口投与した際、野生型マウスと比較して、Rdx-/-マウスでは顕著な吸収増加が認められた。これには、受動拡散ではなく、P-gpが大きく関与していた。また、消失相に変化は見られなかった。以上の検討より、消化管P-gpの細胞膜上局在および輸送活性は、radixinによって制御されていることが示された1)。さらに、ヒト結腸がん由来細胞においても、radixinがP-gpの輸送機能を調節していることを確認した。 また、シルニジピンを用いたin vivoおよびin vitroの検討から、この薬物はP-gpの基質であることが示された。さらに、この薬物を脳虚血ラットに経口投与すると、その分布は脳の虚血部位周辺に特に多いことが明らかになった。従って、虚血部位周辺ではP-gpの機能低下が起きた結果、この薬物の脳移行量が増加し、脳保護作用を表すことが示唆された2)。 1)J Pharm Sci. 2013 Aug;102(8):2875-81 2)Drug Metab Pharmacokinet. in press
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度は、マウスの小腸において、P-gpの細胞全体及び細胞膜上の発現量には上部から下部にかけて部位差が存在することを確認した。特にradixinがP-gpの膜上発現に関与しており、その結果として輸送活性も制御していることを明らかにした。しかしながら、腎臓のP-gpの輸送機能は、radixinによって調節されていないことが示唆された1)。すなわち、radixinによるP-gpの機能制御には、臓器差やがん種によって効果が異なる可能性が想定された。そこで現在、radixinを抑制することは、臓器選択的にがん細胞のP-gp機能を低下させ、その基質薬物の効果を高めるのではないかと考え、これを明らかにすることを目的とした検討を開始した。 ヒト結腸がん由来細胞であるCaco-2細胞においては、P-gpに対してマウスの小腸と同様にradixinが関与していることを確認した。さらに、腎臓がん、肺がんなどの細胞系を用いた検討にも着手しており、26年度前半には、P-gpがその薬剤耐性に関与している各種がん細胞を用いて、P-gpの機能発現にradixinが関与しているのか否かを示すことができるものと考えられる。加えて、26年度後半には各種がん細胞を用いた担癌マウスに対する検討を予定している。 また、薬物の苦味によって小腸のP-gpの機能が亢進することが報告されており、radixinの制御に関わる上流因子として薬物の苦味に着目した検討も開始した。現在までに、P-gp基質群は非基質群と比較して、有意に強い苦味を有していることを確認した(第57回日本薬学会関東支部大会発表、26年度は日本薬剤学会第29年会発表 予定)。
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今後の研究の推進方策 |
Rdx-/-マウスを用いた検討により、小腸のP-gpの輸送活性および膜上発現にはradixinが関与しているが、腎臓においては関与していないことが示唆された。従ってこの調節機構には、臓器選択性が存在することが想定される。さらに我々は、現在までの検討でヒト結腸がん由来細胞においても、P-gpの輸送機能にradixinが関与していることを確認している。このことから、radixinによるP-gpの機能制御には、正常組織とがん組織の間に差がないことが示唆される。そこで、各正常組織のP-gp機能調節における臓器差の有無を確認すると共に、腎臓がんや肺がんなど、ヒト由来の各種がん細胞を用いて、これらの細胞における調節機構の違いに着目した検討を推進する。方法としては、各種がん細胞のradixinをRNAi法によってノックダウンし、がん細胞の膜上のP-gpタンパク発現量を確認するとともに、基質薬物を用いて取り込み試験を行なう。それらの結果から、radixinによるP-gpの細胞内局在と輸送機能を評価する。これらのがん細胞の担がんマウスを作製し、またradixinをin vivo RNAi法を用いてノックダウンし、P-gp基質となる抗悪性腫瘍薬を投与した際の薬物の腫瘍集積性、抗腫瘍効果を検討する。さらに、正常マウスに対しても、同様の検討を行ない、P-gp基質薬物の肝臓や腎臓、脳などにおける集積量の変化を確認する。加えて、各種がん細胞においてMRPsやBCRPなどのP-gp以外の排出系トランスポーターの機能制御にも、radixinが関与しているのか否かを並行して検討する。以上の検討を論文発表等を通して広く公開し、抗悪性腫瘍薬やその他の様々な治療薬が標的組織で十分に薬効を発揮するためには、radixinを標的とした創薬が有用であることを示したいと考えている。
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