研究概要 |
薬物相互作用の重要な一因に、チトクロム P450 (CYP) の阻害があるが、薬物相互作用の程度に個人差をもたらす要因として、酵素の遺伝的多型が注目されている。しかし、酵素活性を不可逆的に失活する「mechanism-based inhibition (MBI)」に関しては、変異に伴う阻害特性の差違についての検討は行われていない。本研究では、CYP3A4 および CYP2D6 の野生型及び変異型分子種に対する MBI 阻害剤の阻害特性の差を評価することを目的とした。 具体的には、ヒト CYP3A4.1, .2, .7, .16, .18 及び CYP2D6.1, .2, .10 発現系ミクロソームを用いて、典型的基質の代謝活性に対するMBI阻害剤の阻害特性 (最大不活性化速度 kinact,max および最大不活性化速度の 1/2 を与える阻害剤濃度 KI) の差異を定量的に評価した。CYP3A4 の阻害剤としては、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、レスベラトロール(RSV)、リモニン (LIM) を、CYP2D6の阻害剤としてはパロキセチン(PRX)を検討対象とした。 その結果、EMやCAMにおいては、CYP3A4のvariants間でKI値に最大5倍以上の差異が認められ、RSV、LIMでもそれぞれ最大 3 倍、4.9 倍異なっていた。また、PRXにおいても、CYP2D6の3種のvariantsでKI値に最大6倍以上の差異が認められた。 以上のことから、MBIによる薬物相互作用の程度に個人差をもたらす重要な因子の一つに、阻害を受ける酵素の遺伝的多型があることが判明した。
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